第二話 身体チェック~千代田朔~

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「……五十円じゃ、ないですよね?」 「それじゃあ俺は廃業になっちゃうよ」  にこやかに笑いながら言われ、朔は慌てて(あい)()(わら)いをして頭を()く。 「ですよね……。す、すみません……」  だが、笑い事ではない。五十万円という値段設定はどうなのだろう。相場としては、良心的(りょうしんてき)なのだろうか。悪質ではないのだろうか。本来ならそんなことはもっと事前に調べただろうし、冷静に判断もできただろう。だが、今の朔にそれは難しいことだった。 「大体(だいたい)、一匹一万くらいにしてるんだけど、ここには百匹くらいいるから、合計は百万。でも、朔はご新規様な上に紹介付きだから特別に半額で五十万! ……と言いたいところだけど……」  紫月の言葉の先を待つ朔の手には、冷たい汗がじんわりと(にじ)んでいる。料金がほんの少しでも安くなることを期待をしながら、朔は正座をして座り直し、一度深く呼吸をして息を整えた。 「今回はすごく(まれ)なケースだからね。朔は特別に出世(しゅっせ)(ばら)いにしてあげるから安心して」 「出世払い……?」  魅力的な言葉だった。朔は(ひざ)に置いた(こぶし)をグッと握る。紫月はしっかり頷いて答えた。 「とりあえず今回はつけといてあげる。言っとくけど、他の人には内緒だよ」 「お金……、いいんですか?」 「そう、とりあえずね。可愛い子限定の、特別大サービス」 「か……、可愛い……子?」 「そう。可愛い子」  ()(かえ)されたその言葉に、思わずムッとして口を(とが)らせる。朔は(どう)(がん)で背も低い為か、昔から『可愛い』と言われることがよくあった。男女問わず、恐らくは()め言葉であるそれを言われても、昔は何とも思わなかったものだが、成人した今では、複雑な気持ちにさせられる。また、ここ数年はちょっとしたコンプレックスでもあった。これまで朔の恋がうまくいかなかった原因は、ほとんどがそのせいだったからだ。誰に想いを打ち明けても、『ちょっと可愛すぎる』とか、『隣を歩きづらい』とか、朔はいつだってそう言われてきた。  幼い外見のせいで、居酒屋に入れば必ずと言っていいほど年齢確認をされるし、なかなか彼女ができないこともあって、同性愛者だと勘違いされることも多い。もっとも、働きに出てからはスーツを着ている時に限り、居酒屋での年齢確認は何とか(まぬが)れるようになったのだが。 「僕は……、別に可愛くなんか……」 「ん?」 「あっ、いえ……。何でもありません……」  口を尖らせ、不服(ふふく)だと言わんばかりにそう言った朔を見て、紫月はまた、くすくす笑っている。 「ごめん。何か気に(さわ)ったの?」  紫月は朔の頭をポンポン、と()でる。 「いえ……」  それだって子ども扱いをされているような気がして、(しゃく)(さわ)った。だが、紫月の手の温もりは不思議と心地よくて、朔は嫌だとも、やめろとも言えなかった。 「そうそう、それから出世払いの代わりと言っちゃなんだけどね、浮気はなしだ。約束できる?」 「浮気……?」 「セカンドオピニオンはなしってこと」 「はい! わ、わかりました……!」  その心配には及ばない。今、朔にそんな余裕はないのだ。他の霊媒師も占い師も、朔は一切知らない。大体、こんな突飛な相談をまた一から他の人間にするなんて、そんな面倒なことは考えもしなかった。 「オッケー。それじゃあ……、始める前に一つだけ確認させて?」 「確認? 何ですか?」 「うん。大したことではないんだけどね。まず、ここにこう、座ってくれる?」  首を傾げながらも、朔は促されるまま、背を向けて紫月の前に正座をした。 「こう……ですか?」 「そう、そのまま(うし)ろ向いててね」 「はい!」 「よし、朔。とりあえず、服を脱いでもらっていいかな?」 「……はい?」
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