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体が、マシュマロのようなふわりとしたもので包まれている。暖かくて、心地が良くて、このままずっとこうしていたい。
「坊ちゃんに呼び出されるなんて初めてで、びっくりしましたよ」
重たく閉じた瞳は開けられないが、届いた声に、ぼんやりと耳を傾けた。
「ああ……、急に呼び出して悪かった」
「いいえ。いつでも来ますから、頼ってください。熱もないし、特に気になる所見もない。彼は、過労でしょう。そういえば、むかしの坊ちゃんも無理をし過ぎてよく倒れてましたね……。きちんと睡眠をとって、栄養を取れば大丈夫ですから。あまりご心配なさらないように」
「わかった」
誰かと話す、隆臣の声が聞こえる。
揺蕩っていた体が海面に浮上していくように、眠っていた体が覚醒してくる。依歩は、薄っすらと目を開けた。
「起きたのか……? 大丈夫か?」
心配そうな表情の隆臣と、白髭を生やした優しそうな初老の男性が、依歩を見下ろしていた。
「目が覚めたのなら何か少し食べて、またよく眠るようにね。じゃあ、坊ちゃん。私はこれで……」
「ああ、助かった。依歩、見送ってくるから、そのまま寝てろよ」
にこにこと微笑む初老の後に続き、隆臣も部屋を出ていく。
「目が覚めて良かった。坊ちゃんのあんな心配そうな顔、初めて見ました。社長も、坊ちゃんのこと気にかけてらっしゃいますよ」
「どうかな……」
「お互い、意地を張っている期間が長すぎたんです」
「…………」
微かに届く二人の話し声。依歩は、そっと体を起こした。最近ずっと鈍く重たかった頭が、少しだけすっきりとしている。ベッドサイドに置かれた電子時計を見ると、十八時半と表示されていた。
「寝てろって言っただろうが」
隆臣はすぐに戻ってきた。普通に話していても、重低音で怒気を孕んだように聞こえる隆臣の声。慣れたつもりでいたが、今はびくりと体が揺れてしまった。
「すみません……! 僕……」
ベッドに正座し、土下座をするように頭を下げる。業務中に気を失い、こんな時間まで寝こけてしまったのだ。多大な迷惑をかけてしまった隆臣の顔を見るのが怖くて、頭が上げられない。自分の体調管理もきちんとできない、だらしない人間だと思われただろう。なんて無責任で非常識な行為なのだろう。
「体調は?」
依歩を怒るどころか、優しい隆臣の気遣いに泣きそうになった。正座をする依歩と少し間を空けて、隆臣がベッドの端に座った。
「…………」
「依歩、顔を上げてくれ」
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