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「本当に少ないな……」
三階の、使われていなかった空室に運ばんだ荷物を見て、隆臣が目を瞠る。個展は大盛況に終わり、季節はもうすぐ今年の終わりを迎えようとしていた。
今日、依歩は隆臣の家に引っ越してきた。仕事として来る他に、恋人として隆臣に会いに来ていた依歩の様子を見かねた克己が『引っ越してきちゃえばいいのに』と言ったのが事の発端だった。『俺が……、ずっと言おうと思ってたのに……』と隆臣がぼやいていたことも、今となっては笑い話だ。
「家具は、アパートの備え付けだったし、あとは着替えくらいしかないので」
「そうか……。でも、これから色々増えていくかもしれないな」
こくりと頷いた依歩の頭を、隆臣が優しく撫でる。
依歩は最近、改めて料理の勉強をしている。思ったよりも、自分は料理が好きだったらしい。本格的でおいしいものを作るのが楽しい、そして食材の知識や栄養学についてもっともっと知りたい。日々の食事で、健康に暮らしたい、そう思ったのも、隆臣に出逢ったからだろう。『好き』が増えるほど、心が豊かになっていくのを感じる。
「仕事が落ち着いたら、隆臣さんとイギリスに行ってみたいです。傷心旅行のためにお金貯めてたので……」
不貞腐れたような言い方をして、隆臣を見上げる。
「ああ、一緒に行こう」
依歩にとって一番大事な『好き』が、優しく微笑んだ。
~End~
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