小さな「好き」から見つけましょう

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石畳の商店街をしばらく進み、一番活気がある駅周辺を抜けた少し先の角には、コンクリート打ちっぱなしの外壁に、全面が大きなガラス張りになった建物があった。ぽつりぽつりと住宅も増えてきたこの辺りでは、一際目を引くモダンでオシャレなビルだ。開放的な開口部からは、中の様子がよく見える。一階は、真っ白な内壁に、天井のダクトレールに配置されたダウンライトが、店内に飾られた様々な作品を照らしていた。 『ビルの一階には画廊が入ってる。今回の窓口はこの間営業所に来た克己さんという男性だから、克己さんを訪ねなさい』 「鏑木ビル」の表記はないが、所長に言われた通りテナントに画廊が入っているのでここで間違いないだろう。 とりあえず、邪魔にならなそうなスペースに駐輪すると、ふぅ、と息を吐き、自然と緊張で強張っていた体を弛緩させる。リュックを背負い直して姿勢を正すと、ギャラリーKとで書かれたガラスドアを押した。 「こんにちは」と声をかけると、ほどなくして奥の方から「は――い」という声が聞こえてくる。表からはよくわからなかったが、五階建てのこのビルはL字型をしていた。壁だと思っていた突き当りの右側にさらに空間が広がっていて、そこから一人の男性が出てきた。画廊のオーナーであり、今回の依頼主でもある鏑木克己(かぶらぎかつみ)だ。同じ鏑木姓ではあるが、社長のご子息の遠縁にあたる人らしい。 「いらっしゃい。迷わなかった?」 「はい、大丈夫でした」 克己に会うのは二回目だ。一度、担当するスタッフと顔合わせをしたいと言って、営業所にやってきたのだ。 ウェーブがかった長めの前髪をかき上げた清潔感のある髪型に、少し垂れ目ですっと鼻筋の透った優しげな甘い面立ち。高級感溢れるネイビーのスリーピーススーツは、長身で細身の体形によく似合う。 「そうか、良かった。それじゃあ、さっそくだけどオフィス内を案内するね」  にこりと克己に微笑まれ、依歩の緊張も徐々に和らいでくる。 歳は三十一だと聞いているが、優雅で落ち着いていて、気品があり、画廊のオーナーという仕事柄か、実年齢よりも上に見える。空間を美しく彩られた画廊は、克己のセンスと心意気を感じられた。 「今通ってきたところが、販売している作品を置いているお店のメインスペース、こっちは商談の時に使う部屋、そしてこっちは僕のオフィスになってる」
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