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「パパ、早くトイレ出てくれる?」娘がトイレをドンドンと叩く。
「今出るから、ちょっと待って」急いで水洗レバーを引き、ズボンのチャックを閉める。
五人家族の我が家の朝は忙しい、洗面所の争奪戦、ダイニングのテーブルは満員状態。
居場所がなくなったので、私は玄関を出て庭でしばらく一人でいることにした。
どこからか聞こえてくる、いつもの声。
――おはよう――
「ああ、おはよう」手作りの椅子に座り、コーヒーを一口すする。
――私にもお水をください――
「あ、悪い、そうだな、最近雨降ってなかったな」
私はジョウロに水を汲み、植木鉢のガーベラに水をやる。
何を隠そう、私には変な能力が備わっている……自然と会話ができるのだ。
子供の頃は当たり前だと思っていたのだが、中学生になる頃にはそれが普通ではないということに気づき始めていた。
私は百貨店の営業企画をしている普通のサラリーマン、しかしこの能力があるがために、ある副業をするはめになった……
「行ってきまーす」
長男が庭でぼんやりしている私に声をかけてきた。リュックをしょって学校に出掛けるところだった。続いて次男、長女の出かける姿が見えた。
「やっと空いたかな」
私は家に戻り、朝食を取ることにした。テーブルについてトーストを食べていると、奥さんが話かけてきた。
「今日は何時に帰るの?」
「あれ、言ってなかったっけ? 今日は名古屋に出張だから、向こうで一泊だよ」
「聞いてないわよ、そういうことは早く言っておいてよね」
名古屋に大型デパートを建設中だ。オープンを来月に控え、その下見とプロモーションの打合せがあった。
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