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翌朝、エオルは騒ぎ声で目覚めた。またクロオニが出たと男が触れ回っている。騒々しいと呆れながらも、目覚めを受け入れ腰をあげた。
宿泊客はエオルの他にもう一人青年がおり、彼もまた騒ぎで目覚めたようだった。
「クロオニってやっぱり奴隷商人なんですかね? 山賊の仲間だって話も聞きますが」
目覚めて早々、青年――ラタが問って来る。彼が口にした二つの説も、クロオニの話題についている有名な話だ。
理由としては、足跡の消える先が賊の出る山であること。更にその向こうの国が、奴隷大国であることが由来する。
「両方とも兼ねてるってのが有名だな」
「もし本当なら、この都市の子は本当に不憫ですよね。だって、不幸な場所に生まれて、更に不幸な環境へと連れていかれちゃうんだから。僕なら怖くて直ぐにでも逃げ出しそうですよ。あ、でも催眠には抗えないですかね」
想像に共感を見せるラタは、軽い笑顔を浮かべた。まるで他人事な顔に、エオルは敢えて問いかける。
「催眠と言えば、クロオニはなんで態々痕跡を残すと思う?」
「"見せつけているのでは"とは言われますよね」
「見せつけるか……俺は違う気がするんだよな。まぁこの都市でなら足跡くらい大したリスクにはならないが」
この都市は設備やシステムが不完全だ。住人の管理は愚か、戸籍すら存在しない。
加えて都市の出入りも管理されておらず、誰がどんな目的で入出しようと一切の情報が残らなかった。だから、敢えて都市を通過地点に選ぶ旅人も少なくない。
「まぁ、そういう都市ですからね、ここは。ところでエオルさん、これからどうされるご予定で?」
「そうだな、部屋に籠るのも何だし、軽く外を歩いてみようかと。そちらは?」
「僕はこれから仕事がありまして。少し出ます」
言うなり、あっという間に支度したラタは、それではと部屋を出ていった。
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