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閑散とした街並みが続いている。煤けた建物の前で跪き、何人もの人間が物乞いをしていた。中には当然のように子どももいる。人々の顔に生気はなく、既に死んでいるかのようだった。
纏ったぼろ布から私服が見えないよう、無意識に身を縮める。用事なんて名目がなければ、今ごろ宿に籠っていただろう。
財布が盗られたとの喚きが聞こえた。骨と皮で出来た少女が、嬉しそうに裏路地に掛け入る。その手にボロボロの財布を持って。けれど、先にいた青年に奪われ泣いていた。
――やっぱり廃れている。町を歩き、感じるものは変わらない。
「汚い餓鬼め! 今すぐこいつを殺せ!」
角の向こう、怒声が聞こえてきた。予定上通過する道ゆえ、そのまま歩いてみる。
そこで見たのは、大の男が少女にのし掛かり暴行する姿だった。
抵抗する少女の近くには、土に汚れたパンが転がっている。恐らく男から盗ろうとしたのだろう。
回りの野次馬は、見えていないかのように通り過ぎる。男は容赦なく少女を殴る。
「何もそこまで……」
足が一歩出たが、敢えてそこで止めた。声を掛け男を宥めれば、場は収まるかもしれない。しかし、目を付けられる可能性は否めない。それは避けたい。
通り過ぎる他人に紛れ、エオルも空気に徹した。
――様々な光景を目にしながら、目的地に辿り着く。そこには、綺麗に途絶えた足跡があった。
都市の中心部を抜け、無人の通りに出るとそこから足跡は始まる。それから、鬱蒼とした山を前に足跡は消える。大人と子ども、それぞれ一セットずつの足跡が。
周囲を見渡してみたが、警備員は愚か、人一人いなかった。まるで好きなだけ連れ去ってくれと言わんばかりの対応だ。
足跡をなぞる。ついたばかりのそれは、微かに撫でただけで薄れてしまった。
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