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「お疲れー」
「何だ?繋がっていないのか?おーい、Yasu.、Mookin、Dog67、聞こえてるなら返事してくれー」
約束の7時ちょっと前、他の3人へゲーム招待を送る。
俺達の決まりで、ゲームを最初にオンラインへ繋いだ人が他の3人へゲームの招待を送る決まりとなっている。
俺はバイトに遅刻しそうになった事で昨日から繋ぎっぱなしの為、そのまま皆へ招待を送った。
最初にMookinと繋がり、Dog67、少し遅れてYasu.も繋がった。
Yasu.は5分程遅れたが、10分以上が遅刻と決めてあるので、これは遅刻にはならなかった。
3人とも表示ではオンラインになっているのに、声が聞こえなかった。
実家に住んでいるDog67が、家族にうるさいと言われて深夜にマイクをオフすることはあるが、3人とも聞こえない事はあり得ないと思い、自分のマイクかイヤホンの不調かと思ってジャックを抜き差ししてみた。
「おーい、聞こえるかー」
もう一度呼びかける。
ジャックを抜き差しした時に『ブツブツ』と音がしたのと、誰かはわからないが部屋の外を走る救急車の音を拾った。
「おーい」
自分の声がモニターから聞こえ、音声も繋がっている確信はしていたが、誰の声もしない。
「あれは、夢だろ…」
俺は皆に聞こえない程度の小さな声で呟いた。
ついさっきまで忘れていた悪夢の事を思い出してしまい、背中からお尻に向けてゾワゾワとした何かが走り抜けた。
あまりにもリアルで衝撃的だった為、一瞬事実かと疑いそうになったが、もし事実だったらYasu.もMookinもDog67も今こうやって繋がるハズがない。
「あ!昨日の俺のエイムテクにビビってるのか?」
あの夢が事実ではないと確信したところで、3人は昨日の俺のゲームテクニックに嫉妬でもして、悔しがってるのだろうと思っている俺になって話しかけた。
そんな調子にのってるヤツには、3秒もしないうちに「滝行決定!」と誰かが言うに違いない。
『滝行』はゲーム内での修行で、かなり難しい。報酬はいいが、ダメージが大きくコスパが悪いので俺達は避けている。
なので、俺達は滝行を罰ゲームとしている。
しかし、昨日の自分のテクニックには自分でも絶賛していて、今の俺なら滝行へ行っても普通に帰ってこれるんじゃないかという気がしていたので、少しは調子にのっていた。
「ビビってねぇよ…」
最初に返してくれたのは少し元気がない声のMookinだった。
俺は調子にのったヤツっぽく口調も変えたつもりだったが、Mookinからは普通の返事だった。
まぁ、とりあえずMookinとはオンラインで繋がった事を声で確認できた俺は、少し安心した。
「Mookin、よかった。マイク壊れたかと思ったぜ。これ先週買ったばかりで…」
「Vanpu…」
「お!Dog67。遅かったな!」
Mookinへ話している途中にDog67が俺を呼んだ。
ビビってたのは俺の方かと思い、声を聞いただけでこんなにも安心するものなのかと笑いそうになった。
「Vanpu、どこに…いるんだ?」
「Yasu.!何だ?どこって、家からに決まってるだろ?何言って…」
最後にようやくYasu.の声が聞こえた。
皆の声を確認できてすっかり安心しきった俺だったが、Yasu.の質問に答えようと話し出した途端、あの嫌な夢が目の前のモニターに映像が映し出されるくらい鮮明に脳内に見えた。
夢で、Yasu.はさっきとほぼ同じ事を言った。
『慎一、どこに…いるんだ?』
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