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Yasu.の声がした。
俺の視界は辺り一面真っ白な煙で何も見えなかったか、Yasu.の声だけはハッキリと聞こえた。
深夜1時過ぎ、店にはアルバイトの俺と、バックヤードで仮眠をとっている店長しかいなかった。
暇な時間が嫌いな俺は、雑誌の種類と向きを揃えるのに徹していると、ガラスの向こうからジロジロと俺の行動を見て笑っている3人組に気付いた。
深夜のアルバイトを見下して笑っている面倒なヤツらだと思った俺は、そいつらに視線を合わせず無視していると、そのうちの1人がガラスを叩き出した。
「くっそ!…あっ!!」
さすがに割られるのは困ると思い、顔を上げると、俺のよーく知っている3人が、俺の顔を見て笑っていた。
「何しに来たんだよ。うわ、寒っ!」
寝ている店長を起こさないように俺は3人組がいる深夜の寒空の下へ出た。
「ちゃんと働いているか見に来てやった」
「コラ!店員さん、ゴミが溢れてるじゃないか!」
「外は寒いからってサボんなよ!」
冷やかしだった3人に腹を立てたくなったが、確かにゴミが溢れてるのは見えていたので、何も言えなかった。
「くっそぉ!」
俺は薄手の長袖コンビニ制服のみで、雪が降りそうなくらいの寒さの中、急いでゴミ箱のゴミ袋を取り出して、新しいゴミ袋へと取り替えた。
「捨ててくるから、客が来たらデカイ声で呼べよ」
俺は3人へそう言うと、駐車場の端にあるゴミ置き場へとゴミ袋を持って走った。
うちのコンビニは駐車場が広く、ゴミ置き場まで少し距離がある為、店を離れるのは少し心配になる。
『バタン』とゴミ置き場のコンテナの蓋を閉めて振り返ると、店の前で白い息を吐きながら盛り上がってる3人が見えた。
俺は3人が少し羨ましい気持ちと、冷やかしとはいえ、こんなに寒い中俺のバイト先まで来てくれた3人の気持ちに嬉しくなった。
「半年前までは、全く知らなかったのにな…」
俺は白い息を吐きながら、3人と出会えた事の嬉しさを小さく呟いた。
『プァァァァァーーー!!』
『キィィィィ!!』
3人の元へと帰ろうと足を踏み出した瞬間、突然道路側から連続して鳴らすクラクションと、タイヤが擦れる爆音がものすごい勢いで近づいてきた。
「なっ!!」
『ズドォォーーン!!』
眩しい光と四角い巨大なトラックが目の前をすごいスピードで通り過ぎ、その巨大なトラックは吸い込まれるようにコンビニへと突っ込んで行った。
一瞬何が起こったのか理解できなかった。
俺は訳もわからず全力で3人がいたコンビニの前へと走った。
しかし、俺が全力で走っているのにもかかわらず、コンビニとトラックの間からは白い煙が勢いよく吹き出して、トラック全体を覆いそうになっていた。
「何なんだよ!おい!康弘!良彦!祐輔!」
俺はYasu.とMookinとDog67の本名を大声で呼びながら走った。
「何だよ!これ…ぐ、がはぁっ!」
白い煙で何も見えなくなり、どこがコンビニの入口かもわからなかった。
3人の名前を呼び続けようにも、煙を吸い込んでしまい、声が出なくなってしまった。
俺は耳を澄まして音のする方へと進んだ。
すると、微かな声で
「慎一、どこに…いるんだ?」
と、Yasu.の声が聞こえた。
俺はYasu.の声の方へと進もうとすると、急に体が後ろへ引っ張られた。
「危ない!!」
俺を背後から引っ張った何かがそう言ったかと思うと、Yasu.の声がした辺りから火が見えた。
それを見た俺は、腰から下が熱せられたスライムのように地面に溶けていく感覚がした。
そんなぐにゃぐにゃの俺は、誰かに後ろへと引きずられ、煙から解放された場所へ出た途端、その煙がある下一面を『グワッ!』と一瞬だけ火が走った。
「慎一くん、大丈夫か?!」
俺を火から遠ざけるように引っ張ってくれたのは店長だった。
店長が寝ていたバックヤード側の外観は煙に包まれておらず、裏口から外へ出たみたいだった。
「お、お…」
俺はあの火が覆っている場所にYasu.の声がしたと店長へ伝えたかったが、腰が抜けたのと、煙を吸い込んでうまく声が出ない。
『バァァン!!』
「うわっ!」
最初に火の出た辺りを中心にして、爆発音とともにトラック全体を火が覆った。
俺の頬に火の粉が当たる。
そこで、俺は目を覚ました。
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