前の席の伊藤くん

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前の席の伊藤くん

僕は前の席に座る伊藤くんの事が好きだ。大好きだ。愛してると言っても過言ではない。 伊藤くんは覚えていないかもしれないけど入学式の日僕は朝から体調が良くなくて、式の途中で気持ち悪くなったんだ。 それを隣りに座っていた伊藤くんが気付いてくれて、僕を保健室に連れて行ってくれた。 でも、途中で我慢できなくなって吐いちゃって―――。 伊藤くんは嫌な顔一つみせずに吐き続ける僕の背中をさすってくれて、汚してしまった床の後片付けまでしてくれた。 僕が謝ると「こんなのはお互い様だよ。気にしないで」って言って笑ってくれたんだ。 僕は伊藤くんの笑顔に胸がどきどきした。 その時はどきどきの意味が分からなかった。 同じクラスになったら仲良くなろうって思ってたけど、不幸にも伊藤くんとは一年、二年と別のクラスで―――。 ずっとずっと遠くから見守ってた。 伊藤くんは優しくていざという時には行動力もあって、見守ってるうちに僕は伊藤くんに恋をしてるんだって分かったんだ。 三年になってやっと同じクラスになれて嬉しくてうれしくて何日も眠れなかったくらいだ。 おまけに席も前後だし、仲良くなるチャンスだ!って思ったんだけど、片恋こじらせちゃってる僕は面と向かってはうまくしゃべれなくって。 それで気持ちが溢れちゃったんだ。 伊藤くんの背後から「好き」って言っちゃった。 びっくりして振り返った伊藤くんの顔恰好良かったなぁ。 どんどんどんどん好きになる。 もう自分の中の「好き」を押さえるのが難しくなっちゃって、所かまわず口に出して言っちゃってる。 だけど、普段は恥ずかしくて無関心を装ってるから伊藤くんも意味が分からないって顔してて、こんなんじゃダメだって分かってる。 ―――僕だって面と向かって「好き」って言いたい。 贅沢を言うなら伊藤くんとつ、つ、つき、付き合い、たい。 でも、伊藤くんはきっと僕の事なんて恋愛対象としては見てくれないから。 だから僕は「好き」っていう僕の気持ちを伊藤くんにこっそりと伝え続ける事にしたんだ。 伊藤くん、好きだよ。
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