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後ろの席の佐々木くん
「好き」
背後から小さく聞こえた声。
僕以外誰にも聞こえないくらい小さな声。
僕の後ろの席の佐々木くんはこうやっていつも僕に口撃してくる。
最初は気のせいだと思った。
佐々木くんが僕のことを好き、だなんて。
今日こそは証拠を掴んでやる、と勢いよく後ろを振り返れば真面目にノートに書きこみをしていて、「なにか?」って顔で見られた。
また失敗だ。
最初は、忘れたころに授業中にだけ口撃されるだけだった。
なのに段々大胆になってきたのか、最近では授業中だけじゃなくてすれ違う時とか購買で並んでる時とか、いつでもどこでも口撃されるようになった。
佐々木くんは見た目は小柄で可愛らしい感じなんだけど、真面目で勉強もできて誰にでも優しくて、みんなからも信頼が厚い。
意外と熱血なところもあって、去年一昨年と別のクラスだったけど体育祭なんかは一番目立ってた。あんなに小さな身体のどこにそんなパワーがあるのか。
佐々木くんは一言で言って、すごい人なのだ。
そんな佐々木くんが何で僕に口撃するのか。
いじめって事は絶対にないと思うし、遊びっていうのも半年間という長期間に及んでる事から考えにくい。
だとすれば……どうして?
理由が全く分からなかった。
それに、僕は佐々木くんの口から「好き」って口撃されるのを見たことがなかった。だからまだ僕の勘違いの線も完全には捨てきれなくて。
普段の佐々木くんの態度からも『好き』と繋がらなかった。
だから、まるで『だるまさんがころんだ』みたいに佐々木くんが口撃するのなら、はっきりと口に出して言うのをこの目で見て、確認しなければならなかった。
『佐々木くん、僕の事が好きなの?』
僕は佐々木くんが何を思って僕に口撃をしかけてくるのか、理由が知りたかった。
じゃないと僕は勇気が出せないと思うから。
だって僕も佐々木くんの事が――――。
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