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第十四話 壊れる
数分して、光司が秀を連れてやってきた。
「和樹くん、あそこに悪口を書き込んだのは秀だ。俺じゃ無い」
「もうどっちでも良いよ、そんなこと。お前ら殺して俺も死ぬ」
俺は隠し持っていたカッターナイフを手に取り、二人に刃をむけた。だけど、いざ二人のどっちかを刺そうとすると、足が立っていられないほどに震えだし刺すことが出来ない。
「どうしたんだよ、刺さないのか。仕方ないなあ」
光司はそう言うと隠し持っていた果物ナイフを取り出し、何のためらいもみせずに秀の腹を刺した。
「…な、ん、で」
秀は小さくそう言ってその場に倒れる。俺は秀から流れる赤い体液を見て腰が抜けてしまう。
「あぁあ、和樹くん。お前が秀を殺してくれないから俺が殺すことになっただろ。どうしてくれるんだよ、お前のせいで俺の人生ぶちこわしじゃねぇか」
光司は俺のそばまで近寄り俺の顔をのぞき込むとそう言った。俺はそんな光司が怖くなり、慌ててその場から逃げ出した。
「弱虫っ」
後ろから光司の笑い声がきこえる。
光司の頭は壊れていると感じた。そうで無ければなぜ、あんな事が簡単に出来てしまうのか説明がつかない。いつか自分も光司に殺されるそう感じた。
家に帰り、顔を洗い、部屋のベッドに俯せで横になる。
数分前のあの光景は一体何だったのか。何度も何度もさっきの光景を無意識のうちに思いだしていた。
そんな時、携帯が鳴り出す。その電話に出ること無く無視をするが何分も鳴っていたから出ることにした。
『もしもし』
『お前なんかこの世にいらない存在なんだからもう死んだ方が良いのに』
電話越しに光司の声が聞こえる。そしてその声はそう言い残し電話は切られた。
それから何日も何日も光司の電話は続き、頭がおかしくなりそうだった。
何でこんな事になってしまったのだろう。なんだか生きていくことが嫌になった。
もう死んでしまいたいという衝動に駆られ、引き出しからカッターナイフを取り出しまた左手首を切った。
携帯の電源を落とし誰とも関わらないようにする。それからベッドに仰向けに横になる。
なあ、人は死んだらいけないって誰が言った?
自分一人が今死んだ所で何も変わらないし、周りの人間だって何も変わらない、困らない。世界は終わらない、ただ自分がいない世界が無情にも回り続けるんだ。自分が嫌だと言ってもみんな年を取って死ぬし。だったら、今死んでも構わないような気さえしてくる。
もういいや、生きていくのが面倒くさい。今死のう。そう思いカッターナイフを手に取り、風呂場に向かう。浴槽にお湯を張り左手首を切りその手を浴槽につける。
だんだんと意識が遠のいてきた。そうだ、人はいつだって一人なんだ。
そういえば、死んだら自分と言う存在はどうなるんだろう。記憶は、意識は。どうなるんだろう。
きっと、ただ、無に戻るだけ。存在は何も残らない。ただそれだけ。あぁ、人の命がゲームみたいだったら良いのに。そしたらまたスタートボタンを押してやり直すことが出来るのに。
そんなことを考えていたら目の前が暗くなった。
「…ずっ、起きてよっ。死んじゃやだよ」
遠くからそう泣き叫ぶ声が聞こえてくる。誰だろう、誰が泣いているんだろう。
あれは、あの声は美夜?
だんだんと視界が明るくなった。
「ここは」
目を開け、意識が戻ると美夜が泣きながら俺をみていた。
「かず、良かった。生きていてくれて本当に良かった」
「何で、俺、生きてるの。もう、死んでも良いと思ったのに、今のままじゃ何も変わらないから死にたかったのにっ。なぁ、何で助けたりなんかしたんだよっ」
俺のために涙を流す彼女にそう言ってしまう。
「もう、殺してくれよ。美夜、俺、もう死にたいんだよ」
彼女に追い打ちをかけるようにそう言って泣いた。
「嫌だよ、かずが死んだら嫌だよっ。だって私はかずが大好きなんだもん。かずが死んじゃったら、私のこのかずが好きって言う気持ちはどうなるの?」
「知らねえよ、そんなの美夜の自己満だろ。俺には関係ない。その感情を俺に押しつけないでくれよ」
その言葉をきいた彼女は、ごめん、わかったとそう一言言い残し病室から出て行った。
自分が言ってしまったことに後悔など無かった。こんな俺を好きでいるより、他の人を好きになった方がきっと幸せだと思う。だから後悔などしていない。
ー続くー
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