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第一話 出会い
人はなぜ、嘘で満ちあふれているこの世の中に、一生懸命に生きようとするのか。なぜそんなに傷つけられながらも現実世界でもがこうとするのか。なぜ、愛を求めるのか。
現実と理想の間で生きていくのはもう、うんざりだ。
俺はこの世の中で生きていくことも、人を愛すると言うこともめんどくさい、正直に言ってしまえばどうでも良いとさえ感じている。だから俺は、現実世界で生きることをやめ、自分の世界に引きこもり小さな世界の中で生きていくことに決めた。
もう人と関わりたくない。
こう考え始めたのは小学校三年生の時にさかのぼる。
誰も来ないような静かな公園で一人の男の子がブランコに乗っていた。
「…はぁ」
男の子は何度も何度も溜め息をついていた。俺がそんな男の子に声をかけたのが全ての始まりだった。
「ねぇ」
「なに?」
俺が声をかけると、男の子はブランコをとめた。
「きみ、なんで溜め息ばかりついてるの。何か嫌なことあったの?」
すると男の子は突然、涙を流し始めた。
「別に何でも無いんだ。ただね、今度新しい学校に転校するんだ。だから不安で」
男の子はそう言った。その時俺は、じゃあ、自分が友達になれば良いねとそう思った。
「…僕は和樹。滝沢和樹って言うんだ。君の名前は?」
俺はそう言うと右手を差し出した。
「光司だよ。香川光司」
光司もその手を握り返してくれた。
「じゃあ、僕が光司くんの友達第一号だね。よろしく」
「うんっ」
これが光司との出会いだった。
それから数日がたって光司は同じ小学校に転入してきた。どこの世界にも虐めなんてあるもので、地味で俺の他に友達もいなかった光司はすぐにに標的なってしまった。
「教科書無いの。じゃあ、一緒に探そ?」
放課後、教室に残り一人で泣いていた光司に近寄り、隠された教科書を一緒に探すのが日課になっていた。隠した犯人はわかっていた。俺の幼なじみ、小川秀。
「あ、あった。和樹、ありがとう」
俺が探し見つけると毎回、笑顔で光司はそう言った。
「それにしてもなんで秀は光司を虐めるんだろうね」
俺は教科書を渡してふとそんなことを言った。
「…それは僕にもわからないよ」
光司の顔は青ざめていた。そんな光司の顔をのぞき込んだ。
「どうしたの?」
心配になって声をかけた。すると光司は、少し慌てたように俺に背を向けた。
「何でも無いよ。大丈夫だからっ」
そして教室を走って出て行ってしまった。俺は慌てて後を追いかける。そして何もそれ以上話さなかった。
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