第十五話 生きる事、死ぬと言う事

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第十五話 生きる事、死ぬと言う事

それから一週間、退院して家に帰った。ただ何となく秀が刺されたあの公園に行ってみた。するとそこには美夜もいてブランコに乗って泣いていた。 「…美夜」 気がつけば、無意識に声をかけていた。 「あ、かず。この間は本当にごめんね。自分のことしか考えてなかった。かずの気持ち、考えて発言してなかった」 美夜は俺に気づき、近寄ってきてそう言った。 「もう良いよ、大丈夫」 「でもね、やっぱり私はかずに生きていて欲しいって思うの。その私の想いは自己満にしかならないのかもしれないけど、どうしてもやっぱり、生きていて欲しい」 そんな真っ直ぐな彼女の想いが、気持ちが嬉しかった。 「ありがとう」 俺はただ一言そう言ってその場を立ち去ろうとした。 「待って」 美夜はそう言って俺の腕を掴んだ。 「離せよ」 「嫌、行かないで。かずが悲しい気持ちでいるなら、私が側にいてあげたい」 彼女のそんな言葉をきいて頭に血が上ったかのように彼女の俺を掴むその手を振り払う。 「ふざけるな、お前に何がわかるんだよ。俺の何がっ。美夜はいつもそうだ。俺のことをわかっているようなふりして、偽善者ぶって。美夜のそういう性格、うざいし嫌いだ」 美夜は俺の顔を真っ直ぐにみて静かに泣き出す。 「…何でそんなことを言うの。私はただ、かずのことが心配で大切だから側にいてあげたい、力になりたいと思ってるだけなんだよ」 「だからそれがうざいって言ってんだよっ。いい加減気づけよっ。だいたいな、俺のことを少し知ったからっていい加減なことを言ってんじゃねえよっ」 俺はそう言い放つと美夜が泣き出しているのを無視して走って家に帰った。部屋に入ると、パソコンの前に座り頭を抱える。 美夜に酷いことを言ったことはわかっている。だけど、今更後悔をしても仕方ない。もう美夜は俺のことなんて忘れてしまえばいい。 携帯の着信が鳴った。画面を見ると光司の文字。 『和樹くん、まだ生きていたんだ。携帯が最近繋がん無かったからもう死んだかと思ったよ』 『ごめん』 なぜか謝っている自分に気づく。 『謝るぐらいなら死ねば良いのに。お前なんか生きている価値すらも無いって言うのがまだわからないのか』 光司はそう言うと突然電話を切った。 光司の言う通りだ。俺なんか生きている価値すらも無い。いつまでも前を向けず、母にも迷惑ばかりをかけてどうしようもない。これからどうしたら良いのかもわからない。未来がみえない。 ただ俺はみんなと同じように上手く生きていきたいだけなのに。それすらも出来ないなんて。いつもそうだ。俺はいつも嫌なことから逃げてきた。そして、この部屋が自分の生きていく世界なんだ、居場所なんだとそう思い込んで閉じこもって。逃げることが、弱虫なことが全て自分なんだと諦めてしまっていた。 ベッドに横になり目を閉じた。 携帯の着信音で目が覚めた。画面を見て日にちを確認すると次の日を表していた。 『もしもし』 『かず、昨日はごめんね。私、多分、これからもかずが嫌がるようなこと言っちゃうかもしれないし、私が言うことは全部自己満で偽善かもしれないけど、でも、かずがもし死んじゃったら悲しい。私が困るの。これは偽善なんかじゃ無いよ。だから、かずには生きていて欲しいの。それじゃだめ?』 電話越しの美夜の声は今にも泣き出しそうなほどに震えていた。 『俺こそごめん。昨日は酷いことをいった。俺さ、昨日家に帰った後に凄く後悔したんだ。美夜の気持ち、嬉しい。でも、こんな俺のままで良い訳なくて、だから、美夜の優しさに甘えられない』 『良いの。私がかずのこと必要なの。だから、側にいたいの』 美夜にそんな言葉を言われて思わず涙が頬をつたった。 『…ありがとう』 俺はその一言しか言うことが出来なかった。 『…うん』 電話越しに美夜も泣いているのがわかった。それから彼女が会いたいと言うから家に呼ぶ。 一時間ぐらいしてから美夜が家にきて自分の部屋に通す。 「そこに座って」 「うん、ありがとう」 ベッドの上に二人で座り何も話さないでいた。少ししてからこの前あったことを美夜に話し始めた。光司や秀に殺意を抱いたこと。光司が秀を刺してしまったこと。 「こんな事があったから美夜に八つ当たりした。だから、言い訳をするわけじゃ無いけど、本当にごめんと思ってる」 俺は下を向く。何となく美夜の顔をみることが出来ない。どんな顔をして美夜をみたら良いのかわからない。 「私こそごめんね。かずのそんな理由知らないから自分勝手なこと言ってたね」 美夜は俺に優しく抱きついてくる。 彼女は全然悪くない。悪いのは全て自分。でも彼女のその優しさに今は甘えていたかった。 「ねえ、かず。お願いだから自分を傷つけるようなことをするのはもうやめて」 数分してから彼女がそんなことを言てくる。 「それは無理。俺が死にたいと思っていることには変わらないし、やめる事はしない。だってさ、辛いだけなのに何で生きていかなきゃいけない?」 彼女の顔を真っ直ぐにみる。 「死んじゃっても良いなんて事言わないで。死ぬことは人生から未来に背を向けてしまうことなんだよ」 彼女は少し声を震わせた。 「じゃあ、死ぬことが人生から未来に背を向けることだって言うけど、人と上手く関われない人間はどう生きて行けって言うんだよ。何をやっても上手くいかない、夢も希望も無い、そんな奴が生きてる意味って何だよ。死んだら楽になれるのに。それも許されないならどうしたら良いんだよ。自殺がかっこいいだなんて思ったことはないけど、ただ、人生の一つの手段だと思うんだ。人は早かれ遅かれいつか死ぬんだから、死ぬのも生きるのも自分で決めても良いと思う」 「自分で決めて良い命なんてどこにも無いよ。何度も言うようだけど、私にはかずが必要なの。それにきっとお母さんだってかずが死んだら悲しむ。私だって悲しい。悲しんでくれる人が一人でもいるのに、そんな人を悲しませてまで自分で決めなくても良いと思う」 また彼女は声を震わせた。 「どうせ悲しんだって今だけだろ。よくテレビでは死んだ奴のこといつまでも想っていますって言ってるけど、死んだ奴にとっては良い迷惑でしか無いね。いつまでも過去を引きずって馬鹿みたいだよ」 「そんなこと無い。私はかずが死んだら、自分が死ぬまで悲しむし、ずっと貴方のことを想う。だからさ、生きている意味がわからないなら二人で見つけようよ。いつか、明日が来ることが楽しみになるように」 彼女は静かに頬を濡らしていた。そこまで言わせて、自ら命を絶つことを正当化しようとしてた自分が情けなくなってしまう。 「わかった。もう、リスカはやらない」 彼女をゆっくりと引き寄せる。 「今は無理かもしれないけど、少しずづ、変わっていこうと思う。美夜、ありがとう」 抱き寄せた腕の力を少し強くした。 「うん」 それから何分ぐらいこうしていただろう。もう時間がわからなくなるほどに美夜と抱き合ったままでいた。 ー続くー
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