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次の日の朝、いつもの教室、いつもの自分の席。
「昨日はごめんね」
光司が後ろの席から声をかけてきた。
「良いよ」
俺は振り返らずにそう言った。
特に気にしてはいなかった。ただ、何となく光司をみる気になれなかった。
「おい、和樹。お前光司と遊ぶのもうやめろよ」
そんな時そう言ってきたのは、幼なじみ兼、クラスのリーダー小川秀。
「どうして?」
「だって、うざいじゃん」
秀は少し黙ったが、そう答えた。
「じゃあ、もし僕が遊ぶのやめないって言ったら?」
俺は秀の顔を真っ直ぐにみる。
「…そうしたら俺は、全力で和樹、お前を敵に回す」
少しの間、秀は今までみたことがないぐらいの顔して俺の事を睨んできた。
俺はその目に殺気を感じて身震いしてしまった。
「どうなんだよ。光司と遊ぶのやめるの、やめないの?」
かすかに震えている、自分の体を無理矢理止める。そしてまた、秀の目を真っ直ぐみた。
「僕は光司と遊ぶのやめないよ。秀もいじめなんてやめてさ、みんなと仲良くしようよ」
当時、俺より背の大きかった秀は、俺のあごを右の人差し指でそっと上に上げた。
「それ、本気で言ってるのか。和樹は光司の事を助けたいんだ。幼なじみの俺なんかと遊ぶより、こいつと遊んだ方が楽しいんだ。わかったよ、和樹の気持ちは」
秀は狂ったように笑い始める。
「光司、きいたかよ。和樹が身代わりになってくれるってさ。良かったじゃん」
後ろでこちらの様子を伺っていた光司はすがるようにして秀の後ろに行ってしまった。
「…これで僕、虐められない。和樹が身代わりになったら、良いんだよね?」
何それ、嘘だろ?
それが光司の本音なの?
俺はそう思い何も言葉に出来なかった。今から考えてみれば、当たり前のこと。だってさ、人間、弱い者につく奴なんて誰もいない。強い者についた方が良いに決まっている。
だって、どんな人間でも自分が可愛くて自分自身を守ることで必死なんだから。
「もちろん。約束だからね」
秀の目は、殺気に満ちた目ではなくなっていて、優しい目に戻っていた。
「どういうこと、約束ってなに?」
頭の悪かった当時の俺は、自分が裏切られたのだと言うことに、全く気がついていなかった。
「馬鹿だね。光司は、お前との友達ごっこ遊びを続けるより、虐められない生活を選んだんだよ」
秀は自分の後ろに隠れていた光司の頭を撫でた。裏切られたと気づいてその場から逃げ出したくなって逃げ出した。
ー続くー
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