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第二話 虐め
次の日、昨日のことは夢だったと思い込んで、教室の扉を開ける。
「ゴミが来たぞ。おい、誰だよ。ゴミを教室に入れたの。ゴミはゴミ箱だろ」
教室に入ると、ゴミ箱を頭からかぶせられた。
「汚いし臭いんだからこっち来ないでよ」
当時、俺はクラスの中で独り孤立していた。誰かと話しをしたくても、無視されて、誰も相手にしてくれない。それだけで、元々強い方ではなかった俺の心は悲鳴を上げていた。
「もう、うるさい。息しないでよ」
息をしているだけ。ただそれだけで、この言われよう。だけどそんなことにも三年生だった俺は、日を重ねていくうちになれてしまっていた。
逃げてたまるか。逃げずに戦えば、厳しかった俺の父はきっと褒めてくれる。ただ、そう思うだけで救われていた。
いつもの日々が過ぎていくうちに、体につく傷の跡は増えていった。でも、涙を流す回数は減っていった。
気持ちが強くなったから?
違う、ただ弱すぎて、泣くことを忘れているだけ。
「和樹、私は和樹の味方だからね」
放課後の教室で、幼なじみの美々に言われた。
美々は誰にでも優しい女の子。俺の味方をしてくれていたただ一人の女の子。
だけどそんな彼女が、今の自分と話している姿をクラスの誰かがみてしまったら、今度は美々が虐めの対象になってしまうかもしれない。そう考えた当時の俺は酷い言葉しか言えなかった。
「誰が、味方でいてくれっていたんだよ。いい加減なこと言わないでよ」
「なんでそんなこというの?」
美々は今にも泣き出してしまいそうな顔で俺をみる。
「じゃあ、僕これから用事あるから、帰るね」
そんな美々をみていられなくて逃げるように教室を出た。今、守ってあげられるのは自分だけ。そう思っていた。
「和樹、ランドセルを置いたら、父さんの所にきなさい」
家に帰り、たまたま休日だった父親に部屋に来るように言われ、なんだろうと思いながら自室にランドセルを置いてから父の待つ部屋に向かう。
「そこに座りなさい」
ただ一言そう言われて、俺は父親の前に座った。
「最近どうだ。学校は」
「学校。もちろんうまくやってるよ。学校で僕は、人気者でさ、友達も多いんだよ」
なるべく明るい嘘をついた。尊敬している父親に精一杯の嘘をつく。だってさ、大好きな父にどうやったら自分は今、虐められてるなんて事言える?
そんな事言えるわけがない。
「そうか。良かったな、和樹」
そう言って俺の頭を優しく撫でてくれた。そんな父をみているのが何よりも辛くて今にも泣き出しそうだった。
「お父さん、僕そろそろ部屋で宿題やらなきゃ」
「お、そうか頑張れよ」
宿題を理由に父の部屋を離れ自分の部屋に逃げ込んだ。部屋に入ってドアを閉めたとたん、静かに涙が頬を流れ落ちた。泣き声が誰にもきかれないように顔を枕に沈めて泣いた。
次の日から春休みに入ったが、すぐに春休みも終わってしまい、あまり休めなかった体を無理矢理起こして学校に向かった。
ー続くー
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