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ゆっくり顔を近づければシトラスの香りと柔軟剤の匂いが鼻をくすぐる。
少し前まではこの時間がとてつもなく切なかった。
でもいつのまにか私だけの幸せな秘密になって。
ねぇ
唇を重ねるだけでこんなに幸せになれるなんて知らなかったよ。
全部あなたが教えてくれた。
甘えるように唇を近づければ慣れた柔らかい唇が触れた。
ちゅっ
唇を離してからもう一度綺麗な顔を眺めれば
そういえばと思い出す。
私はもうひとつ、もうひとつまだしていないことがある。
あまりに大切で、言葉に出すのは怖いくらいに愛おしい音。
「れおん」
でも気がつけば声に出ていた。
私を呼ぶ彼の声の響きは飽きるほど知っているのに、
私は自分ですら彼の名前の響きを知らない。
「ふふ」
それがなんだか皮肉だった。
起きよう。
もう一度さらさらとはちみつ色をすいて息をついた後にひんやりとする床に足を付ける。
今日の朝はなにがいいだろうか。
久しぶりに2人でパン屋さんに行くのもいい。
それとも…
右足、それから左足。
異変に気がついたのは
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