1.11月のプリンセス

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1.11月のプリンセス

「じゅんー」 ガチャリ。 鍵を回して玄関のドアを開ければ慣れ親しんだワンルームが私の目の前に広がった。 あかりは灯っているのに部屋の主から返事がないのはいつものことだ。 ソファの前のテレビに陣取っているグレーのスエットをみて息をついた私は玄関で手早くブーツを脱いだ。 部屋の主は相変わらずゲームに明け暮れているようだった。 近くのスーパーで買ってきた食材の袋をキッチンの台に置いてしまってからトントンとテレビの方に歩み寄ればようやくこちらに気づいてコントローラーから手を離す彼。 「…、お、きてたの?」 呆れるしかない。 肩をすくめて頷けば、切長の瞳がいたずらっ子のように細められる。 彼がこの顔を浮かべれば言うことは決まっている。 「今日何?」 すぐにご飯の催促をしてくる彼に私は笑った。 「…うーん、生姜焼き、かな?」 「お、やった。」 キュッと上がる口角に頬を緩めればコントローラーを握り直してゲームの続きを始める彼。 「…もう」 呆れるしかない。 部屋を見渡せばあらゆるところにものが散らかっているのが見えた。 ため息をついて私はソファに散らばった洗濯物を回収する。 初めて彼の家に行った時は驚いたものだ。 脱ぎっぱなしの服に、流しにはいつ置いたのかもわからないお皿が大量に積み上がっていた。 「…なんでこんなに生活力ないのよ」 彼が聞いていないのをいいことにボソリと呟く。 週末に会いに行って部屋を綺麗に片付けてもまた一週間経てば元通りになっている。 彼は平気な顔をしているから初めの頃は偶然今日は散らかっているのかもしれないと思うことにしたが3回も部屋を訪ねる頃にはこの空間にはいられないと思って片付けることにした。 洗濯機をかけて、シンクのなかのお皿を洗ってご飯の支度を手早く終わらせればその間テレビからピクリとも動こうとしなかった人がウキウキと立ち上がる音が聞こえる。
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