音楽家の2020年

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 個人的にコロナ以降の変化で一番興味深かったのは、リモート演奏という文化が生まれたことだ。  誰とも会うことができなかった自粛期間中、何とかしてアンサンブルをしたいという音楽家の熱意によって、会わずに合奏をするという新しい表現方法が開拓された。  ただし残念ながら、現在の一般的な家庭の通信環境では、ビデオ通話サービズを使って同時に演奏をしようとしても、修正が不可能なぐらい大きな時間差が生まれてしまうため、技術的にはまだ難しい。  そこで現状のリモート演奏では、演奏者がそれぞれ各自で撮った動画を集めて、それを後から重ね合わせて編集するという工程を経て作られる。  たとえばヴァイオリンとピアノのふたりで演奏をしようとするなら、まず最初にピアノだけで演奏した動画を撮り、ヴァイオリン奏者はそのピアノの動画を見ながら演奏するという順番になる。  要するに、カラオケの伴奏に合わせて演奏するようなものだ。  ただしこの方法は、クラシックのように曲のテンポが一定ではなく、常に相手の微妙な感情の揺れを感じながら演奏するスタイルとは、相性がいいとはいい難い。  それでも音楽家たちは、演奏をしたいという衝動を押さえることができなかった。
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