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廊下に出た俺はドアの鍵を閉め、隣のニ○ニ号室に向かった。
鍵を開けると異臭がした。
脂っぽいすえた臭いでどんよりと濁った感じだ。
檻のような鉄格子の中にガリガリに痩せた女性がいた。
まだ若いのに肌に張り艶はなく、髪もバサバサだ。俺が部屋に入るとすぐに這いつくばって寄って来た。
「何か食べ物をください。お願いします」
なんとか絞り出した声だった。耳を澄ませなければ聞き取るとこもできない。
俺は持っていたビニール袋に手を突っ込んだ。女の目がそれを捉えていた。
取り出した水のペットボトルを渡す。
女はがっくりと項垂れた。
「お願いします。お願いします」
消えそうなくらいの声のしか出せないようだ。可哀想に。
でもそこに新聞紙一週間分を置いてあるではないか。空腹を紛らわすのにはちょうどいいだろう。少し引きちぎった跡があるのは、空腹に負けて口にしたようだ。
「あんたはお願いされてお願いを聞いてあげたのか?まぁしゃべれなくては意思の伝えようがないもんな。可哀想に」
俺が背を向けると鉄柵を動かす弱々しい音が聞こえた。振り向くまでもない。あの女が必死に手を伸ばして来ているだけだ。
俺は部屋を出ていった。
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