処刑マンション

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 俺はチェーンまみれの男の遺体の処理を終わらせ、マンションに戻った。  廃墟に近いこのマンションの周りは昼間でも人通りが少ない。少ないというよりもほぼない。  住宅もなければ娯楽施設もないこの辺りに用事がある人がいるとは考えられない。  テレビをつけると速報が流れていた。 『工場の裏手で男性の遺体が発見されました。男性は所持品から野々村光輝さんだと言うことです。野々村さんは虐待の容疑で先日まで服役し出所したばかりで、何者かに殺され遺棄されたもようです。警察は死体遺棄で捜査にのりだしています』  思ったよりも早く見つけてくれた。  発見があまりに遅くなっては腐敗が進んでしまう。身元は早い段階でわかってもらえたほうがいい。  俺はテレビを消して、防寒着を重ね着した。これならシベリアに行っても生活できる。  四〇二号室に向かった。  前を通るだけで冷気が立ち込めているのが感じられる。  鍵を開け取手を握ると、凍てつくような冷たさが手袋から伝わってきた。凍りついた扉がめきめきと音を立てて剥がれて開いた。  冷凍庫のように空調管理された部屋に入る。  部屋の真ん中には裸の女性がいた。手首を縛られ天井から吊るされている。若干体のたるみが気になり出した四〇代の体つきをした女だ。胸も陰部も露出しているがエロさは全く感じられない。手や足の指先が変な色をしている。既に壊死している。  ガタガタと体を震わせている。当たり前だ。この部屋はマイナス五度に設定してある。服を着ていたとしても震えるだろう。それが素っ裸となればなおさらだ。  女は物音で顔をあげた。以前は綺麗だっただろうが、真っ青な今の顔は幽霊のようだ。  女が何かを喋った。ガタガタと震える唇では言葉を作る事ができないようだ。  俺はシンクに行きバケツに水を溜めた。  それを持って女の前に行く。  女は顔を仕切に横に振る。  いやだいやだと伝えている。  俺はお構いなしにバケツの水を女の体にぶっかけた。  悲鳴もあげられない口がかっぴらかれた。震えが加速する。 「あんたもこうやってたんだろ?躾だなんだって言いながら、嫌がる香乃子(かのこ)ちゃんに、真冬のベランダに出してホースでやってた。そうじゃないのか?」  震えの止まらない状態で女はなんとか頷く。 「極寒の中外に放り出された香乃子ちゃんの気持ちがわかるだろ?どれだけ不安で、どれだけ寂しいのか。唯一の親であるあんたに助けを求められないだけじゃなく、折檻を受ける気持ちがわかるか?どんな気持ちで亡くなっていったかわかるか?あぁ?」  つい言葉が強くなってしまった。感情が入ってしまうとどうしょうもない。  俺はもう一度バケツに水を溜め、女にかけた。  低体温症にでもなったのか。女は失神した。  俺はそのまま部屋を出た。
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