処刑マンション

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 二〇二号室に向かった。  そろそろ食事を与えないで一週間が経つ。人間水分だけ与えていればしばらく生きられると聞いていたがまさにその通りだ。  あの女は一歳になったばかりの陽茉里(ひまり)ちゃんに、食事だと言ってパンを一斤枕元に置いて男の所に遊びに行っていた。  男から子供の事を聞かれると、親に預けてきたと嘘をついて一週間も放ったらかしにしやがった。水道の蛇口も撚れない一歳の子供に何ができる。  俺は二〇二号室の扉を開けた。  鉄格子の中の女は横たわっていた。ホウキの柄で突っついてみたものの反応がない。  しばらく突っついていたが反応がないので、鉄格子の鍵を開けた。  もし生きていたとしても、これだけ衰弱していれば俺に敵うはずもない。  傍によって首に指をあてた。  微かな脈が感じられるがそれも時間の問題だろう。  陽茉里ちゃんの気持ちがこれでわかるだろう。どんな思いでパンを食べていたのか。無くなって手に届く紙をなぜ食べていたのか。空腹で助けてほしいのに唯一の親のあんたがいなかった不安がどれほどのものだったのか。  法で服役して罪が償えると思うな。子供の命と数年自由を奪われる事を天秤にかける自体がおかしい。命は命。守らなかった親に全ての責任がある。  野々村は子供を脅迫して自ら飛び降りるように仕向けた最低の男だ。仕事もせず妻の稼ぎだけで生活をしていた。子供を育てるのに金がかかる。働けと何度も言われた。仕事が見つかるまで酒を買わないと言われた。それならば子供がいなければいい。子供にかけるお金を野々村にかければいいと考えそのような行動を取った。  毎日のように虐待は繰り返され、それから逃れる為に苦肉の策で子供が選択をした。生きて帰ってきたとしても虐待は続いていただろう。  心が痛む。  体中に『命』を吹き込まれた二〇一号室の佐々木は、子供にタバコの火を何度も押し付けた。消えない体のキズと、ココロのキズを負わせ、失意の中死んでいった。  タバコの火は熱い。そんなことは誰もが知っている。根性焼きなんて馬鹿げたことだ。綺麗な体に消えないキズをわざわざつける必要なんてない。歳を重ねれば消えないキズなどいくらでも増える。それを抵抗できない子供に対して親がすることは極刑に値する。  暴力を振るわれ続ければ人は変わってしまう。抵抗すればもっと殴られる。抵抗しない選択肢しか無くなる。そして限度を超えた時命を落とす。  あの男にはもう少し『命』を吹き込んでから死んでもらおう。
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