虎太郎と富美子

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虎太郎と富美子

「こらぁ。席に着きなさい」 「うるせぇなぁ。勉強なんてうんざりなんだよ」  中学三年生の担任をしている泉富美子(いずみとみこ)は、校内一の厄介者のクラスメイト神林虎太郎(かんばやしこたろう)を追いかけていた。 「まだ授業中でしょ。いい加減なしなさい」  校庭の隅のサッカーコートまで追いかけてなんとか捕まえた。捕まえたというよりもわざと捕まえられたという感じだ。  まだ二十代とはいえ、中学生のエネルギーにかなうはずがない。息があがる。 「いずみん離せよ」 「先生に向かっていずみんはないでしょ」  富美子は片手で虎太郎を捕まえ、もう一方の手を自分の膝に置いて肩で息をしていた。 「いずみんはいずみんじゃん。他になんて呼べばいいんだよ」 「ふー」  富美子は大きく息を吐いて呼吸を整えた。 「泉先生でしょ!」 「他のセンコーと違って、いずみんには親近感が湧くようにそう呼んでんのに嫌なの?」 「もうっ」  彼の制服を摘んでいた手を投げるようにしたて離した。  神林虎太郎はこの地域では有名なヤンキー中学生で、富美子以外の先生とは会話すらしない。他校の先生達も絶対に請け負いたくない生徒として認識している。  虎太郎が唯一心を開いているのが富美子だ。
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