最終話 花火の音は、もう止んだ。

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 不意に得た柔らかい感触に。突然の事態に把握が追い付かず、砂音は虚を衝かれたように固まった。  軽く触れただけですぐに離すと、朱華はそのまま、至近距離で砂音の榛色(ヘーゼル)の瞳を見つめた。意思の強い、燃える茶褐色(アンバー)の瞳で。じっと、逸らす事なく見据えて。 「音にぃは、汚れてなんかない」  きっぱりと、そう告げてやった。 「それでも、汚れてるって言うんなら……いいよ。汚してよ。あたしの事」  音にぃになら、構わない。そう続けると、彼は瞠目した。 「だから、そうやって自分を追い詰めるな。すぐ自罰的になるの、音にぃの悪い癖だぞ」  悩みがあるのなら、話し合おう。ちゃんと。――もう、一人ではないのだから。  最後に説教するように締め括ると、依然として硬直したままの彼の反応に気が付いて。ふと朱華は、寸の間時を止め己の今しがたの言動を思い返した。そうして、その大胆過ぎる内容に改めて自覚が湧くと――一気に、耳まで真っ赤に染め上げた。 「わぁあああっ!? ごっごめん!! その!! なんていうか!!」  ――あああたし、音にぃの唇、奪っ奪……⁈
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