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4-1 鬼ぃさん、電話です!
次の日。ようやくベッドから出ることを許されたけれど、やっぱり学校は休むよう言われてしまい、わたしはしぶしぶ家でだらだらとテレビの前にいた。とは言っても、テレビの内容はほとんど頭に入ってこなくて、ひたすらぼんやりし続けている。
なんとなく身体がだるいのは、昨日倒れた後遺症みたいなものだと、家守は言っていた。その家守は、今朝もひとしきりお母さんを口説いてお父さんとじゃれあいをしてから、今は買い物に出かけている。きっと、途中で井戸端会議しているおばあちゃんたちに捕まるだろうから、しばらく帰ってこないだろう。
おじいちゃんもお父さんも、それぞれ法要に出ているし、お兄ちゃんも弟の小春もそれぞれ学校だ。お母さんはお参りに来た檀家さんの相手をしているし--なんと言うか、暇だ。
(今日は確か……体育祭で出場する種目を割り振るはずだったんだよなぁ)
走るのは得意だが、力の調整が難しいため、できればもう少しイロモノ系の種目に立候補しようと思っていた。
(借り物競争とか、ムカデ競争みたいなのとか……そういうのが良いな。どうなったかな)
そっと、スマホを見る。今朝、お母さんに返してもらってすぐに、ミサちゃんへはメッセージを送ったけれど、まだ既読もついていない。それはそうだ、授業中だろうし。
(今日はミサちゃんと仲直りして、一緒にお弁当食べようと思ってたのにな……)
家守が、「死にかけてた」なんて大袈裟な言い方をしたから、お母さんまで必要以上に心配してしまったのだ。まぁ、確かに自分でも死んだと思ったけれど。
倒れたのが本当に福庭くんのせいだったなら、本人に言った方が良いのだろうか。「あなたの近くにいると死にかけるので、近寄らないでね」って。
--やっぱりこっち来て良かったわ。
そう言ったときの、福庭くんの笑顔が頭にちらつく。あれは、本当に嬉しそうだったから。そんな彼に「近寄らないで」と言うのは、なんかこう……申し訳ない感じがしてしまう。
(いや、でも、失礼なことも言われたしな……)
その後の嫌な感情や夢見の悪さを思い出して、心を怒りへとシフトさせる。うん、よし。クラスメイト相手とは言え、心は鬼にしないと。あれは苦しかったし、また家守に小言言われるのもウザいし。
そう心に決めたところで、不意にスマホが震え出した。
「えっ? あ!」
電話だ。しかも、ミサちゃんから。
慌てて電話を取ると、「もしもし」と可愛らしい声が聞こえた。
「わ、わたしわたしっ!」
『……うん。知ってる』
ミサちゃんからスマホにかけてきたんだから、そりゃそうだと思いつつ、「えへへ」と照れ隠しについ笑ってしまう。なにより、ミサちゃんとようやくお喋りできた--それが、本当に嬉しい。
「ミサちゃん、あのっ、昨日わたしのこと」
『うん……びっくりした。たまたま、見つけられたから良かったけど……死んでるんじゃないかと思って、本当に……』
その声は。いつものミサちゃんと違って、どこかか細くて。わたしは慌てて「そうだよね!」と力強く頷いた。
「わたしも、死ぬかと思ったし! ミサちゃんのおかげで、ほんと助かった! ありがとうっ」
『……それなら、良かった』
気のせいかもだけれど。電話の奥で、ミサちゃんがちょっと微笑んだような気がして、わたしはほっと肩の力を抜いた。
『おばさんから、目を覚ましたって連絡は昨日のうちにいただいてたけど……もう、大丈夫なの?』
「うん! たんこぶは痛いし、ちょっとだるさは残ってるけど。でも、今のが朝より元気になってるし、大丈夫!」
『そう。……プリントとかの届け物しに、夕方寄っても大丈夫かしら?』
「平気だけど……ミサちゃん、部活は?」
吹奏楽部は、朝練も放課後練も毎日休まずやってるイメージだけれど。わたしの言葉に、ミサちゃんは「大丈夫」と請け負った。
『昨日の今日で、さすがに気持ちも落ち着かないし。朝練のときに、部長にはもう許可をもらったから、今日は休むわ。……ちょっと、花の顔も見たいしね』
「……! うんっ、わたしもミサちゃんに会いたいから、待ってるね!」
そこで休み時間が終わってしまったらしく、ミサちゃんとは手早く(口早く?)バイバイをして、通話を終えた。
ミサちゃんと話せたこと。もう怒ってなさそうだったことが、わたしの心を明るくする。
夕方来てくれたら、怒らせちゃったこともちゃんと謝ろう。そしたらもう、いつも通りだ。
(そうと決まったら、夕方までしっかり休まないと。せっかく来てくれたときにまた具合でも悪くなったら、心配かけちゃうもんね)
そう、いそいそと部屋に戻ったのだけれど。
夕方。ピンポンと鳴ったチャイムに、「わたしが出る!」とバタバタ向かった玄関で見たのは。
「……ごめん、花」
眉を寄せて謝るミサちゃんと。
「や!」
そう、能天気な笑顔でこちらに手を振る、福庭くんの姿だった。
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