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4-2 鬼ぃさん、迷惑です!
「大丈夫ですからお帰りください」
そう、ミサちゃんだけ玄関の内側に引き寄せて勢いよく扉を閉めようとしたのだけれど、思ったよりも強い力でそれは阻まれた。
「山月さん、冷たいのう。ここまで見舞いに来たクラスメイトに、それは酷じゃろ」
「頼んでないし迷惑だから帰ってください」
「えぇっ? そんな、昨日は仲良う二人きりでお喋りした仲じゃろうが。あの後倒れたって、ぶち心配しよったのに」
なんなのこの鋼の精神! わたしの中では、かなり心を鬼にして言ったつもりだったのに、全く堪えた様子がない。
「ごめんね、花。どうしてもついていきたいって言われて……断わったんだけど、なんかマチコとかまで連れてってやれってしつこくて。結局、勝手についてきちゃうし」
「ミサちゃんは悪くない。絶対悪くない」
きっぱりと心の底から言うと、ミサちゃんの目元が少しゆるんだ。
「なぁなぁ、それよりホントに、ここに鬼がおるん?」
「家守のことなら、そりゃいるけれど……でも、今お母さんと料理してるから」
「--おい」
家守の声が。わたしの後、廊下側からでなく、目の前から聞こえてきた。福庭くんの、真後ろから。いつもより、低い音で。
「我が家の可愛い花にまとわりつく害虫は貴様か」
「ちょっと……家守!」
慌てて玄関から出て、福庭くんの首根っこをつかんでいる家守の手を取る。あっさり手は外れたけれど、家守の鋭い目は、福庭くんの後頭部を睨んだままだ。
「この人はね、福庭くん。転校生……じゃないんだけど、最近通うようになったクラスメイトで」
「おまえにちょっかいかけてきた奴だろ? プンプン臭うわ」
「うわぁ同性の美形に臭うとか言われると、なんとも言えん気持ちになるわぁ」
「なんでちょっと嬉しそうなの」
思わずドン引きしてしまったけれど、福庭くんは相変わらず全く気にした様子もなく、「いやぁ」と頭を掻いた。
「そろそろ、動いてもえぇかな? 家守さん、ほんもんのバケモンじゃけぇ、ちっとも読めん」
「……どういうこと?」
福庭くんに訊ねたつもりだったけれど、答えてくれたのは家守だった。
「己の気配が読めんのだろ。花程度の鬼の力なら、影響し合ったり感じ合ったりもできるだろうが」
それで、うちに着くなり「本当に鬼がいるのか?」なんて言い出したのか。家守が気配を隠してて、感じることができなかったから。
「それだけじゃないんじゃよ。俺、簡単になら相手の気持ちが読めるんじゃけど、それも家守さんは無理だわ。もっとも、山月さんもだいぶ読みづらいけど」
ほとんど読めないし、と言われてホッとするわたしの視界の片隅で、ミサちゃんがぎゅっと自分の胸をおさえた。読まれてるとなると、そりゃ、いろいろ嫌だよね……。
「そんなことどうでも良い。貴様はとっとと帰れ。花に悪影響だ」
「帰れと言われて帰るくらいなら、ここまで来てんよ。それに俺は、山月さんの役に立ちたくて来たんじゃ」
「わたしの、役に?」
思ってもいなかった言葉に、つい訊き返すと。ようやくクルリと振り返った福庭くんから投げられた言葉は、もっと予想外だった。
「山月さん、俺とデートせん?」
そう言った途端、無言で家守に蹴り飛ばされた福庭くんは、地面深くめり込んでしまった。
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