4-3 鬼ぃさん、我に策有りです!

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4-3 鬼ぃさん、我に策有りです!

身内が地面にめり込ませてしまったクラスメイトを放置するわけにもいかず、結局、わたしの部屋へとあげることとなった。 「いやぁ山月さん家の鬼さん、すごいなぁ。全く勝てる気せんわぁ」 土まみれになってしまった顔をタオルで拭いながら、目をきらきらと輝かせている福庭くんに、家守は思いきり舌打ちした。 「黙れ。息するな」 「あはは、それは死んでまうよ」 「死ね」 「ちょっと、止めてよ」 慌てて間に入ると、家守がプイッと顔を背ける。家守の穏やかな面しか見たことのなかった花ちゃんなんか、目をぱちくりさせてる。 「家守さん……怒ってる?」 「うん……なんか、すごく」 正直なところ、わたしも戸惑っている。家守がこんな怒り方をするのは、あまり見たことがない。お父さんと恒例の喧嘩をしているときとも違う。 「それで、結局なんなの? その……さっきのは」 話が進みそうにないため、こちらから話しかけると、福庭くんはキョトンとこちらを見た。またちょっとゾワッとくるので、そっと一歩下がっておく。 「なにって、デートはデートに決まっとるじゃろ。男女が一緒に出かける、あの」 途端、(どこから取り出したのかすら分からなかったけれど)家守が牛乳パックを開け、拭いたばかりの福庭くんの頭にドバドバと中身をかけた。 「花にまとわりつく害虫には、牛乳かけると良いらしいな」 「俺、アブラムシ扱いなん?」 割りと平然とかけられっぱなしの福庭くんに、家守はチッと舌打ちする。 「プチッと潰せればなぁ……」 「あーもーやめて! わたしの部屋が牛乳臭くなるしっ! あと牛乳もったいないっ」 「まぁ……もったいないけど、そういう問題かしら……」 再び、別のタオルでかけられた牛乳を拭き。自分を嗅ぎながら、福庭くんは「いやなぁ」と改めてこちらに向き直った。 「問題なっとんのは、俺と向き合うことで山月さんの身体がぶち反応したり、倒れたりすることなんじゃろ? じゃけぇ、原因の俺が一肌脱ごう思うて」 「はぁ……」 「毎日顔あわすんが辛いなら、一度思いきって二人きりでデートしてな、ショック療法みたいにするんがええんじゃないかって。耐性とか、つくかもしれんじゃろ?」 「耐性って……そういうものなの?」 ミサちゃんに訊ねられても、「さぁ……」としか言えず。福庭くんはすごく自信ありげだけど……。 「アホか」 そう言い放ったのは、不機嫌そうな家守だった。腕組みしながら見下ろすような目つきで福庭くんを見つめ、続ける。 「耐性など、そんなものはない。大体、花が反応したり倒れたりしたのは貴様のせいではあるが、貴様が原因ではない。思い上がるな」 ん? それって、どういう意味だろう。 福庭くんの()にアてられたから倒れたんだろうってわたしに言ったのは、家守だったのに。 「やってみんと分からんじゃろ」 「分かる。貴様が花のためにできることは、近づかないことだけだ」 吐き捨てるように言うだけ言って、家守は扉へと向かっていった。 「こうしている間にも、花には負担がかかっている。さっさと去れ。もう関わろうとするな」 そう告げると、「バカバカしい」と言いながら、部屋から出て行ってしまった。 残されたわたしたちはぽかんとその背中を見つめ、それから互いに顔を見合わせた。 「もしかして、鬼さん怒っとった?」 「えー……今更……?」 なんだか気が抜けてしまって、わたしはへなりと壁にもたれた。実際、家守の言う通り負担がかかっているのか、なんだかちょっと力が抜ける感じがする。 「あの……私、これまでのこと、全部分かってるわけじゃないし……まだ、理解が追いついてないだけかもしれないけれど」 そう話を切り出したのは、ミサちゃんだった。家守が出ていってしまった扉を見つめてから、「えぇっと」と福庭くんとわたしへと向き直る。 「よく分からないけれど、福庭くんと向き合うと、花が一昨日や昨日みたいに具合悪くなっちゃうのよね? その、福庭くんの力みたいなので。それが、花のもってる力のせいなら……なんで、家守さんはなんともないの? 花の力と、鬼である家守さんの力は同じようなものなんでしょう?」 確かに、わたしの力は鬼のもので。鬼そのものである家守は、正逆の存在である福庭くんに近づいても、なんの反応も見せなかった。 「()の違いじゃろ」 「格……?」 「あの鬼さんの力は、山月さんや俺なんかよりも、はるかに強いってことじゃ。歯牙にもかからんってヤツじゃのう」 そう、のんびりとした口調で福庭くんは伸びをした。一昨日の様子だと、福庭くんもわたしの力に全く反応してないわけじゃないみたいだけど、わずかだ。きっと、わたしより福庭くんのもつ力の方が強いってことなんだろう。なんだか、悔しい。 「なら……花の鬼の力を鍛えて、福庭くんの力に対抗できるようにすれば良いんじゃない?」 ミサちゃんが首を傾げながら、予想外のことを言い出した。いや、予想外と言うか……今まで、考えたこともなかったことだ。 「わたしの、鬼の力を?」 「そう。そうすれば、家守さんみたいになにも感じずに済むのでしょう?」 ね、と。微笑むミサちゃんを、わたしはポカンと見つめた。 わたしにとって、自分の力は嫌なもので。それは、過去にミサちゃんを傷つけたことも、理由としてあって。 なのに。そのミサちゃんが、力を鍛えろって言う。 「わたし……」 「それええじゃん!」 言葉を遮ったのは、もちろん福庭くんで。目を輝かせながら、じぃっとこちらを見ている。 「それができれば、クラスで問題なく過ごせるし、デートもできるのう!」 「だから。なんで、デート……っ」 言い終わる前に。 ぐらっと視界が天井に移り、だんだんと暗くなっていく。 「花!」 「山月さんっ! 家守さぁぁんっ、山月さんまあ倒れましたよってー!」 「--だから、てめぇはさっさと帰れって言っただろうがーっ!」 そんな、騒がしいやり取りをどこか遠いところで聴いて。 --力を鍛える、かぁ。 そう、気が進まないながらに、しぶしぶと必要性を理解したのだった。
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