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6-1鬼ぃさん、これは夢です①
もう嫌だ。
こうも気を失ってばかりなのには、どうも納得いかない。
普通の生活してて「気絶」って、そうそうなくない?
なのに、放課後の廊下で一人倒れて危うく死にかけて、クラスメイトとお喋りしてただけでまた倒れて、挙げ句の果てに保護者的な相手に殴られてまた気を失うって。三日間連続だよ? あり得なくない?
いったい、これはどこに抗議すれば良い問題なわけ?
「また随分と荒れとるのう」
声が聞こえたかと思うと、目の前に突然、福庭くんの顔が現れた。しかも、上下逆に。よくよく見れば、空中にあぐらをかいて逆さに浮いている。
「……なんでこんなところに、福庭くんが」
「そりゃ、ここは山月さんの夢じゃけぇ。なにがあっても、おかしゅうなかろう」
言われて、ハッとする。そうか、わたしは気を失っているんだから、これは夢なのか。
「そういえば、福庭くんが目の前にいるのに、嫌な感じしないや……」
「夢じゃけんの。ようやく、まともに話せるなぁ」
福庭くんが、くるりと回って着地する。その途端、真っ白だった空間にぶわっと花びらが舞って。すかっとした青空が、周囲に広がった。
「……わたし、なんで福庭くんの夢なんか見てるんだろ」
「そりゃ、俺のことが気になってしゃあないからじゃろう。イケメンはツラいのう」
むふ、と胸を張る福庭くんをじとりと見やると、福庭くんはすぐに「まぁ」と苦笑した。
「大昔は、気になる相手を夢に見るんじゃあのうて、気になる相手の夢に渡る、って言われとったそうじゃけぇのう」
「相手の夢に、渡る……?」
福庭くんが、にやりとする。その笑顔は不敵なものじゃなくて、ちょっとばかり照れ臭そうで。
「……だったらどうして、福庭くんはそんなに、わたしを気にかけてくれてるの?」
屋上で話したあの日。確かに、似たような立場のわたしに会えたことを、喜んでくれてはいたけれど。それにしたって、急に家に来たり、断っても一緒に帰ろうとしたり、おかしくない? そう言えば、どこまで本気かは分からないけれどデートがどうとかまで言ってたっけ。
「そりゃ、俺だって思春期の男子だもん。可愛い女の子にゃあ、ちょっかい出しとぉなるさ」
「は?」
ちょっとイラッとしたのが顔に出てたらしい。へらへらしていた福庭くんが、顔を強張らせて「すみません」と気をつけする。
「まぁ……そりゃ、最初はバケモンに憑かれとるって思っとったけぇ、なんとかしてやらんとって、考えとったんじゃけど」
「うん」
「……クラスのヤツら、みんな俺のこと好いとるじゃろ?」
「え……まぁ、うん」
どこまで自信過剰なんだろうとも思ったけれど、事実ではあるので仕方ない。頷いておく。
「アレには、裏があっての」
「裏……?」
「簡単に言えば、神様の後光パワーみたいなもんじゃの。特になにもせんでも、お母さんから受け継いだ神の力みたいなもんで、クラスメイトはもちろん、通りすがりのおっちゃんおばちゃんまで、誰でも彼でも、俺に好意をもってしまうっちゅう、恐ろしいもんなんじゃ」
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