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6-2 鬼ぃさん、これは夢です②
(神様の、力……)
つまり。
クラスのみんながやたらと福庭くんを受け入れていたのも、マチコが福庭くんに好意を向けていたのも。全部……その力のせいってこと?
便利な力だ。誰にも嫌われることがないって分かってるから、萎縮する必要もないし、実際に福庭くんもそんな感じだった。友達だって作り放題だし、好きな女の子とも両想いになれて、学校生活の暗部みたいなのがほとんどなくて。それって。
「それって……しんどくない?」
「あぁ、そうじゃのう」
あっさりと頷く福庭くんは、微笑んでいて。わたしは。なんだか無性に、苦しくなった。
自分がどう思い、どんな行動をしようと、そんなことには左右されず好意を寄せられるなんて。
どんなに好きな女の子にだって、自動的に好意を寄せられてしまう--自分の中身なんて無関係に。
そんなの、なんて。なんて、孤独--なんだろう。
「……じゃけぇ、俺にとって山月さんは、無人島で見つけたお月さんみたいなもんじゃ」
「わたし、が?」
「あぁ。正反対とは言え、同類なお陰か--山月さんには、後光パワーも効かんようじゃけぇ。そう分かった途端、嬉しくてのう。お母さんや親父以外にも、俺を見てくれる人がおる、って」
「……」
こうして。正面から真っ直ぐに見つめてくる福庭くんの目は、本当に綺麗で。
「でも……それってつまりさ。わたしじゃなくても良いんだよね。きっと」
「うん?」
「つまりさ。福庭くんの悩みの、逆バージョンだよ。福庭くんのことを自動的に好きにならない人なら、福庭くんはきっと、その人が誰だろうと興味をもったんだろうなって」
「そう……かのう」
意外にもピンとこないのか、福庭くんはぽかんと口を開けてこちらを見ていた。自然と、わたしの口調は強くなる。
「そうなの」
「そうなのか……」
福庭くんはむむむと腕を組み、ひとしきりうんうんと唸ると、やがて「はぁ」と息をついた。
「そうかもしれんのう」
「分かればよろしい」
なんとなく胸をはって頷いた、わたしの腕を。
「ほいじゃが」
ぐっと伸ばしてきた手でつかまれて、目をしばたかせる。触られても拒否反応はなく、見た目より大きくてかたい手のひらの感触しかしない。夢なのに、そんな感触ばかりリアルなのは、変な感じだ。
福庭くんは、やっぱり真っ直ぐな目でこちらを見ていた。今までで、一番近い距離で。変わらぬ真っ直ぐさで。きらきらと、瞳を輝かせながら。
「俺は。今は、山月さんの中身をもっと知りたいと思っとるよ」
「--っ」
その言葉の意味を問いかける間なんて、なかった。身体が、急に宙に浮いて、「えっ? え?」と慌てる。
「山月さん」
「なっ、なに?」
わけが分からなくて、声も上擦ってしまう。
空に吸い込まれそうになる身体を引き留めてるのは、こちらの腕をつかんでいる、福庭くんの手だけだ。それに、必死にすがりつく。
「明日会うたら、山月さんのこと、『花』って呼んでええ?」
「え? は?」
一瞬、頭の中が真っ白になる。咄嗟に出たのは、「良くない!」という叫び声だった。
「なんかっ、すごく馴れ馴れしいし!」
「なんじゃ、厳しいのう。なら、『花ちゃん』にしとくわ」
「は--ぁああああっ!?」
後半は、腕が外れて空に舞い上がる悲鳴だった。
離れていく地面では、福庭くんがこちらを見上げている。その笑顔に見送られて--わたしは。
「……っう……」
頭の鈍い痛みにうめきながら。暗い自分の部屋で一人、目を覚ました。
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