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7-1 鬼ぃさん、仲直りです
「家守さんなら、お友達に会いに行くとかで、朝早くに出かけたわよ」
いつもより少し遅れて起きると、お母さんにそう言われ。夜中にした決意がさっそく挫かれる思いで、わたしはのたのたと朝食のパンにかじりついた。
「お母さん、パンおかわり」
「あら、珍しい。そう言えば、昨日の夜ご飯食べてなかったものねぇ」
実際は、おじいちゃんの作ってくれたおにぎりを二つも夜中に食べたのだけれど。今日こそ倒れるものかと気合いを入れるためにも、朝はしっかり食べておかないと。
「昨日また倒れたのに、学校行って大丈夫なの……?」
「へーきへーき。昨日のは、家守にヤられただけだし。いい加減、なんて言うか……落ち着きたいし」
そう言っても、お母さんは玄関まで心配そうな顔で見送りにきたし、お父さんもその後ろで「なにかあったら無理するなよ!」って声をかけてくるしで、さっそく落ち着かない感じだ。でも、ちょうど廊下を歩いてきたおじいちゃんが、一言「いってらっしゃい」と言ってくれたおかげで、わたしは思い切り手を振ることができた。
「--いってきます!」
※※※
学校についたわたしがやるべき、最優先事項は決まっていた。荷物を置き、自分の席を離れて向かったのは、マチコの席。
マチコはわたしと目が合うと、一瞬だけ身体を強ばらせ、すっと目をそらそうとした。ダンっ、と机に手をつき、その顔を覗き込む。
「昨日はごめん!」
「……別に」
ぼそっとマチコは言うけれど、まったく「別に」という顔ではない。
「ほんと、ごめん。わたし、無神経だった」
心からの言葉を、深々と頭を下げながら言うと、それを見た他のクラスメイトたちが「どうかしたの?」とざわつくのが聞こえてきた。でも止めない。だってわたしは、どうしてもマチコと仲直りしたいから。またバカなお喋りで笑い合いたいから。
「ちょっと……花たん!」
「正直、このところ思うようにいかないことが多くて、イライラしてて。それで必要以上にマチコを責めちゃった部分もあったの。ほんと、ごめん」
「分かったから、頭上げてよ! みんな見てるしっ」
「そんなの関係ないよ。わたしは、マチコが許してくれるまで--」
「許す! 許すって言うか、アタシも花たんにどう謝ろうか悩んでたとこだったし!」
マチコの声は、かなり慌てていて。思わず「謝る?」と声に出しながら顔を上げてしまった。
「マチコがわたしに?」
「そりゃ……アタシだって、後からよくよく考えたら、余計な口出しばかりしちゃった気がしたし……」
ぶつぶつと呟くマチコは、いつものマチコで。
「じゃあ……仲直り、できる? わたしたち」
「……うん……」
自分の両手の人差し指同士をくるくるさせながら、マチコが頷く。わたしは思い切り、その首に抱きついた。
「良かった……! 駄目だったら、例のパンをいっぱい買ってきて献上しなきゃって思ってたから」
「えぇっ!? なんだ、だったらもう少しねばっとけば良かった……」
がくりと項垂れるマチコに、思わず吹き出す。「せこっ!」と声を上げて、わたしはまた笑ってしまった。
「せこくないよ必死なんだよコッチはー! 推しのレアはなかなか出ないしっ」
「あれだけ食べてて出ないとか……それはもうあきらめた方が良いんじゃ」
「ガチャは出るまで回し続ける限り、いつかは排出する率百パーなの! 『例え暗闇の中でも歩き続ける限り僕らは出口と繋がっている』って、兎月様も言ってるしっ!」
「ごめんよく分かんない……」
ドン引きして首から離れたわたしと、興奮して語るマチコとの目が合って。同時に「ぷへっ」と変な声で笑ってしまった。
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