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7-4 鬼ぃさん、お帰りなさい
家守が帰ってきたのは、それから三日も後のことだった。
「土産。みんなで食え」
そう、居間に置かれたのは東京バナナに鳩サブレー、月餅の詰め合わせなどなど。
「しばらく、お茶請けには困らないわねぇ」
と、お母さんは嬉しそうだったけれど。
わたしとしては、あれだけ「謝ろう」と決めていたのに、三日もあけられてしまうと、決意なんて溶けて消えてしまうものらしいということしか分からず。
久しぶりに目が合っても、家守は表情一つ変えなくて、まるであの日のことなんてなかったかのような素振りだった。これ幸いに、わたしもそれに合わせることにする。
--それだって、少しは勇気が必要だったのだけれど。
「……お帰り」
そんなわたしの言葉に、家守はちょっとだけ微笑んでみせた。手のひらをぽん、と。わたしの頭の上に置いて。
「ただいま」
--そのやり取りができたから。とりあえず、まぁ良いか、ということにしておいた。
※※※
「ぜんっぜん良くない」
相変わらずパンをかじりながら、きっぱりと言ったのはマチコだった。わたしとミサちゃんは顔を見合せてから、同時にマチコを見た。
「なにが?」
昼食の時間は、このところ実に平和だ。教室の窓際で、マチコとミサちゃんと三人で机を寄せ合って、くだらないお喋りをしながらお弁当を食べられるということは、すごく貴重でありがたいことだったんだなと、心から思えるようになった。
なのに、マチコはパンを握り潰す勢いで「決まってるじゃん!」とのたまった。
「この、現状がだよっ!」
「なんで? なんか、悪いことなんてあったっけ」
本気で分からず、わたしはまたミサちゃんを見た。ミサちゃんも、困った顔で首を傾げる。
ここ数日、お昼の時間だけでなく、いろんな場面で日常が帰ってきた気がする。倒れることもなくなったし、気分が悪くなることもほとんどない。
リレーだってそうだ。あれからというもの、毎日問題なく練習を続けている。例え、心に引っかかるものがあったとしても。それは、わたしのすべき役割とは無関係だ。
わたしはただ、バトンを繋ぐために走る。それだけだ。
おかげで運動量が増えたせいか、お腹がやたらと空くので、今日もお弁当にパンをプラスしてしまった。体重、増えるとやだな。
「良くない、って言うと……そう言えば、例の。花の力を高める、ってやつ。あれ、なにか考えなくて良いの?」
こそっと耳打ちしてきたのは、ミサちゃんで。わたしもこれには「うーん」と唸る。
それについて、家守に話したときには、あまり良い反応ではなかった。なんとなく、そのことは引っかかってはいる。引っかかってるのは結局、あのときのやり取りに、わたしの中で決着つけられてないからなんだろうけれど。
「……まぁ、どうしたら良いか分からないし。このところ問題もないし、保留でも良いんじゃないかな」
わたしがそう気楽に言えるのは、問題の引き金とも言える存在が、こちらに全く寄ってこないからなのだけれど。
そんなわたしとミサちゃんのやり取りを聞いていたわけでもないのに、マチコは「問題なのは、福庭のコトだよ」と言いきった。
「福庭さ。最近、おかしくない?」
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