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8-2 鬼ぃさん、お小遣いは欲しいです
「花ちゃん、遊ぼー」
そう、土曜日の朝っぱらから玄関先でにこにこと小学生みたいなことを言う客人には、どう対応するのが正解なのか。
朝ごはんを食べたばかりで、服は着替えているものの、髪の毛も垂らしたままだったわたしは、頭を掻きながら「えーっと」と唸った。
「とりあえず……帰れ」
「えーっ? なんでそがいなつれんこと言うん?」
アポもなく突然やって来たくせに、なぜかすごく心外そうな顔をする福庭くんは、なんというか大物なのかもしれない。
「なんでって……別に、福庭くんと遊びたくないし」
「俺ら、屋上で語り合った仲じゃろうに。花ちゃん、俺のこと心配してきてくれたんじゃろ?」
「……そういう仏心をちらっとでももってしまったことを、今ではすごく後悔しているの」
アレのせいで、それまでも馴れ馴れしかった福庭くんが、余計に調子にのるようになってしまった。たかだか、「人外の力をもっている」ということしか共通点がないのに、すごく迷惑だ。
「あらあらぁ。デートに出かけるの?」
とてとてとやって来たのは、お母さんだった。「お邪魔しています!」とハキハキ福庭くんが挨拶すると、「いつも娘がお世話になってますぅ」などと頭を下げる。
「止めてお母さん。お世話になんかなってないから」
「まぁ、この娘ったら。ツンデレってやつね?」
「デレないし。無理してそういう言葉使わないで良いから。て言うか、めんどくさくなるから向こう行ってて」
しっしっと追い払う仕草をすると、「そんなぁ」とお母さんは目を潤ませる。
「だってこの男の子、この前もウチに来た子でしょう? あのときはお母さん、会えなかったから」
「別に会う必要ないし……」
言いかけてハッとする。そう言えば、この前は福庭くんが来たことを察知した家守が、すぐにやって来たんだった。
「そう言えば、今日は鬼さん出て来んのぅ」
同じことを思ったのか、福庭くんは廊下を覗き込むような仕草をした。それに、お母さんが「ふふふ」と答える。
「家守さんなら、まだお父さんと取っ組み合い中なの。毎朝、一通りやらないとお互い気が済まないみたいで」
「朝からアグレッシブじゃのう……」
それにしても、この前の様子なら切り上げてでもやって来そうなのに。なんだかおかしな感じだ。
振り返ってダイニングの方を見つめていると、お母さんが「ねぇねぇ」と耳打ちしてきた。
「これからデートなら、お母さんお小遣いあげるけど」
「デートじゃないけどお小遣いはほしいです」
正直に答えたけれど、お母さんは「それはなしです」とつれない。
「なんでそんな……」
「だってあなた、最近いろいろ大変そうだし。お休みくらい、家でゴロゴロするばかりじゃなくて、お友達と遊んで気分転換するのも良いんじゃないかなーって、お母さん思うの」
きらきらと輝く優しい目で、そう見つめられると、「この男が、『いろいろ大変そう』の原因だけど」とも言えず。
はぁ、とため息をついて、じろりと福庭くんをにらむ。
「……準備してくるから、ちょっと待ってて」
「おっ! ええの?」
「別にデートとかじゃなくて、ちょっと出かけるだから。お小遣いもらうためだかんね! 勘違いしないでよっ」
そう吐き捨て、わたしはバタバタと自分の部屋へと駆け戻った。
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