9-2 鬼ぃさん、持つべきものは友達です

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9-2 鬼ぃさん、持つべきものは友達です

クラス席に戻ると、どうやら借り物内容を放送で聞いていたらしいクラスメイト達から、一気に冷やかされた。 「ずっと手なんか握っちゃってぇ。もう仲良しじゃん」 一人にそう指摘されて、走っている最中からずっと手を握りっぱなしだったことに、ようやく気づく。 「あ、や、これは」 慌てて放そうとするわたしとは正反対に、福庭くんは落ち着いていて。 「俺はもっと仲良うなりたいけぇのう」 そうハッキリ言われてしまうと、むげにすることもできない。放しそびれた手をどうしようとドキマギしていると、少し離れた場所でキョロキョロとしているマチコが目に入った。 「んで、それに対する山月さんのお返事は?」 ふざけた男子の一人が、リレーに使うバトンをマイクのようにしてこちらに向けてくる。 「やめてよ、そういうの」 さすがにちょっとイラッとして、そこでようやく手も放せた。「ノリが悪い」とブーイングやら、ひそひそ声やらが聞こえてきて、心がチクチクする。 「アホか。お前らなに言っとるんじゃ」 福庭くんがそんな何人かを諫める声が聞こえてくるけれど、とにかくその場を離れたくて。なにより、マチコと話しがしたくて、そっちに駆け寄った。 「マチコ! あの……っ」 「あ、花たん。見てたよぅイイ走りっぷりだったじゃん」 思いのほか、笑顔でそう応えてくれたマチコにホッとしつつ、「あの」と言葉を探す。 正直、なにを言ったら良いのか分からないけれど。でも、わたしはマチコの福庭くんへの気持ちを知っていて。マチコは、わたしの大切な友達で。こんなことで、マチコを傷つけるのも、また喧嘩をするのも嫌だから。 「……『想いと想いが重なり合うのは稀有なこと。それが愛情であろうと、友情であろうと』」 「え……?」 キョトンとなるわたしに、マチコはニカリとしてみせた。 「アタシはさ、まぁ、福庭のことはアレだケド。まぁ、どーせ両想いなんて考えてもなかったし、想いの一方通行なら推しへの愛で慣れっこだし? だったらそれより、両想いな花たんとのカンケーの方がずっと大事ってコトで」 「……っマチコぉ」 さっきの空気に呑まれかけて、ちょっと不安になっていたのが、一気にホッとして。思わず目がうるむわたしに、「花たんが萌えキャラになってしまった」とぼやきながら、マチコが頭をなでてくる。 「まぁ、花たんが福庭をどう思ってるのかまでは知らんケド……って。それはそれとして、なんかミサぴょんの様子が変なんだよー」 「ミサちゃんが……?」 周りに視線を向けても、ミサちゃんの姿が見当たらない。マチコを見ると、頬を掻きながら、「なんかさぁ」とうめくように続ける。 「さっき、花たんが福庭に引っ張られてってから……ブツブツ言い出したかと思ったら、急にどっか行っちゃったんだよねー」 「どっか……って。具合悪くて救護のテントに行ったとか?」 ぎりぎり五月とは言え、もう日差しも強いし、ずっと外にいたから熱中症とかだってあり得るかもしれない。その辺に、倒れてなければ良いけど。 焦るわたしに、マチコはまだ首を傾げながら、半分独り言のように言った。 「なぁんか……そういうカンジじゃ、なかったんだよなー……」
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