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10-1 鬼ぃさん、わたしが
目の前で起きていることが、信じられない。だって。ミサちゃんは普通の女の子で。なのに、どうして。
どうして--鬼なんかに。
「ミサぴょん……なに、それ。コスプレ? え、クオリティ高くね?」
先に我に帰ったらしいマチコが、半笑いな声で、ミサちゃんに話しかける。
「目とかそれ、カラコン? 綺麗だけどミサぴょんらしくないって言うか……え? 今までの会話も前フリ的な?」
「マチコ……たぶん、それ違う……」
こっちを見下ろすようなミサちゃんの目が、あまりにも静かで。それなのに、怒鳴られるよりもずっと、プレッシャーを感じる。
「ミサちゃん……なんで、鬼になんか……」
呼びかけると、ミサちゃんの目がつと細くなった。
「--そんなの。私にも分からない。けれど」
こちらを見つめたまま、ブンッと手を振る。衝撃波が、わたしとマチコの間を通って、後の地面を削った。
「--でも。気分はとっても良いの」
ようやく薄く微笑んだかと思うと、なんだかひどく冷たい雰囲気で。それとほとんど同時に、「あっぶな……!」と後から声が聞こえてきた。
「福庭くん……!」
「なんじゃ、アレ……なんで方丈さんが鬼になっとるんじゃ?」
福庭くんが言い終わるより前に、ミサちゃんがまた腕を振ろうとするのが見えた。急いでそれに飛びつくと、やや福庭くんから離れたところを、また衝撃波がえぐった。
「福庭くん離れて! マチコと一緒に--ミサちゃんは、わたしがなんとかするからっ」
叫びながら、抑え込んでいた力を解放する。爪が鋭く伸びて、髪が逆立って--こんな姿、大嫌いだけれど。でも、ふたりを護るには--ミサちゃんに誰も傷つけさせないためには、これしかない!
「うぎゃ!? 今度は花たんが!」
「マチコ、ごめん! わたし、わたし……とにかく後で全部話すから、今は離れてッ」
頭がまだ上手く働いてくれない。とにかく口と身体を動かして、ミサちゃんを抑えないと。
「ミサちゃん、落ち着いて! わたしが嫌な想いをさせたから、怒ってるんだよね? わたし、ミサちゃんに心配かけたくなかったんだけど、それが間違いだったね。もっとちゃんと、頼れば良かった……っ」
「--もう良いの。そんなのより、私から花を盗ろうとする奴を消せば、それで良いの」
うっかり穏やかに話していると勘違いしてしまいそうになるくらい、静かな声だけれど。あんまりに極端すぎて、本当にミサちゃんらしくない。
(家守は、人間が鬼になるには確か……怒りと憎しみ、悲しみが集まって……みたいなこと言っていたけれど。ミサちゃんがまさかそんな、そこまで私のことを想っててくれたなんて)
ミサちゃんの言う通り、わたしの家族やわたし自身の抱える鬼の力の問題まで--全部を知っているのは、家族以外にはミサちゃんだけだ。本当に、唯一無二の親友で、だからわたしもミサちゃんと喧嘩してしまったときは、本当に辛かった。
だから、ミサちゃんがわたしを想っていてくれたこと。びっくりはしたけれど、嬉しくもある。ミサちゃんの語る独占欲みたいなのは、わたしにもあるかもしれない。
でもミサちゃんは--そんなことで、我を忘れて人を傷つけるような女の子じゃない。
(わたしに傷をつけられてから--って、さっきミサちゃん言ってた。それからわたしを好きになってくれたって。それって、もしかして……鬼の力と関係あるの?)
ミサちゃんを傷つけたのは、まさしく鬼の力を初めて暴走させてしまったときだ。
福庭くんには、後光パワーで人に自分を好きにさせる力がある。もしかして、正逆である鬼の力にも、似たような効果があるとしたら。
「ミサちゃん……ごめん、ごめんね……っ」
わたしが、ミサちゃんを振り回して、鬼にまで変えてしまった。
だから。
「わたしが絶対……ミサちゃんを助けるからッ」
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