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2-2 鬼ぃさん、青春の舞台ですよ
漫画なんかだと、高校の屋上は青春の吹き溜まりだったりするけれど、現実の高校では施錠されていることがほとんどだ。
屋上に続く扉の前。ちょっとした踊り場になっているところにしゃがみこんで、扉に寄りかかる。
さて。
福庭くんはどういうつもりだろう。こんなところに呼び出して。
そういや、屋上が開いてないってこと自体、知らないんじゃないかな。わたしだって中学卒業するまで、高校に行ったら屋上でお弁当食べられるのかなとか、思ってたし。
お弁当と言えば。結局、今日のお昼のときも、ミサちゃんには避けられてしまった。
大量のパンを飲み物のように食べるマチコをぼんやりと眺めながら、お母さんが持たせてくれた弁当を食べた。
じゅわっと柔らかい唐揚げはお母さん、甘くてぶ厚い玉子焼きは家守がいつも作ってくれる--わたしにとっては、馴染みの味だ。どちらもわたしの好物の組み合わせで、運動会とか発表会とか、ここぞというときによくお弁当に入れてくれたっけ。
ミサちゃんはこの玉子焼きが好きで、たまにお弁当に入っていると、「私のどれかと、一切れ交換して」と珍しく甘えるように言ってきたりする。
せっかく、交換のチャンスだったのに。
斜め前の座席は空っぽで、ミサちゃんはいない。食堂でなにか買ってくると言ったきりだ。--ふだんは、自分でお弁当作ってくるのに。
(ミサちゃん……一人でお弁当、食べたのかな)
もの思いにふけていると、下から足音が聞こえてきた。腰を上げて、軽くお尻を叩いていると、案の定、現れたのは福庭くんだった。
「待っとってくれたんじゃな」
にかっと笑ってそう言うと、黙っているわたしの横を通り過ぎて、指に輪っかを引っかけるようにして持ってきていた鍵を、ガチャガチャと扉に差し込んだ。
「それ……先生とかが、管理してるやつでしょ? よく貸してもらえたね」
「こういうんは、コツがあるけぇ」
抵抗もなくかちゃりと扉が開くと、すっきりとした青空が広がっていた。
「わぁ……!」
遮るもののなにもない空を見上げながら、思わず声が出る。風が少し強いけれど、それも気にならない。--屋上って、そういうものだ。
「ほんとは、そうやって笑うんじゃのう」
後ろから声が聞こえてハッとする。
「なにそれ、気持ち悪い」
そう振り返ると、にやにやしている福庭くんと目が合ってしまった。ぞくりとする感覚を、胸を張って受け流す。
そうだ、たとえ虚勢だとしても、堂々としなくちゃ。正逆だかなんだか知らないけれど、なにかしらの力があるっていうなら、この人だってわたしと同類だ。それなのに、自分のことは棚に上げて、「バケモン」とか言ってきて。悪いけど、わたしはそのあたりに関しては異様にしつこいからなっ!
「あんまり長く話したくないから、率直に訊くけれど。あなた、一体なんなの?」
「ほんと、率直じゃのぉ。呼び出したのは俺なのに。まぁ、俺としても話したいのは似たことじゃし」
けらけら笑いながら、いたって軽いノリで「山月さん」とこちらの名前を呼ぶ。
「あんた、バケモンにとり憑かれとるじゃろ」
「え……?」
予想外の言葉に、わたしはパチクリと目をしばたかせた。福庭くんは「ん?」と首を傾げる。
「違うか? 俺のことを嫌がったり、力が反応したり、軽い鬼化したり--なにより、ぶち濃い鬼の臭いがしよるからのう。そう思ったんじゃが」
一人でぶつぶつ言い出す福庭くんを見ながら、だんだんとムカムカし始める。
なんなのもう、昨日から。家守と言い福庭くんと言い、ひとのこと臭いだの臭うだのって。女子高生だよこっちはっ!? そういうの、すっごく気にするお年頃だよっ?
「あのさぁ! なんて言うか、ウチはちょっと特殊なの。 別にとり憑かれてなんかないしっ、家守は家族だし! 変な言いがかりつけないでくれるっ!?」
「家族……」
福庭くんは、おうむ返しにそう呟くと、腕を組んで「むむむ」と唸った。
「そーかそーか。そういうことも、あるんじゃのう」
「なに……なんか、文句ある?」
こうなったら、幾らでも喧嘩してやるって気分だったけれど。福庭くんはあっさりと「いや」と手を振った。
「盲点だっただけじゃ。うちと同じじゃけぇ」
「え……同じ、て」
「家族の一人が人間でないっていうのはな。俺ん家も、そうなんじゃ」
にかりと笑って、福庭くんは言った。どこか嬉しそうに。
「俺は、人間の父親と、山神の母親の子どもじゃけぇ」
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