35人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「笑瑠はさ、本当に好きな人いないの?」
「またその話?」
チョコドーナツをもぐもぐしながら窓の外にやっていた目を美空に向けると、肩をすぼめ手元のコーヒーカップに目を落としていた。
「いないよ」
コーヒーカップの中の黒は、スプーンでミルクと混ざり合い、ぐるぐるととぐろを巻いている。うずが消えると茶色の波が穏やかに拡がっていった。
美空が何かを決意したように、でも、おそるおそる顔をあげた。
「私、間宮くんのことが好きなんだ」
ストローで吸い上げていたオレンジジュースが、ぴゅっと口からこぼれそうになる。
「えっ! 美空、嘘でしょ!?」
「……ほんとだよ」
美空は口をぎゅっと真一文字にし、俯くというか、少し顔を反らしている。
艶のある柔らかそうな頬が色づきはじめるのを見て、ほんとなんだとわかった。
「大地ねー。あいつのどこが」
いいの? とニヤニヤしながら尋ねようとして、止めた。
恋の相手としての大地の良さは私にはよくわからないけど、美空が本当に大地のことが好きなら、その気持ちを笑ったり貶めたりしちゃだめだ。
むしろ、大親友の美空の恋であるなら。
「それでね、笑瑠には」
美空が言い終わる前に、テーブルの上に置いてある手にそっと両手を添えた。
「もちろん。応援するよ!」
最初のコメントを投稿しよう!