天使のあしあと

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 「笑瑠はさ、本当に好きな人いないの?」  「またその話?」  チョコドーナツをもぐもぐしながら窓の外にやっていた目を美空に向けると、肩をすぼめ手元のコーヒーカップに目を落としていた。  「いないよ」   コーヒーカップの中の黒は、スプーンでミルクと混ざり合い、ぐるぐるととぐろを巻いている。うずが消えると茶色の波が穏やかに拡がっていった。  美空が何かを決意したように、でも、おそるおそる顔をあげた。  「私、間宮くんのことが好きなんだ」   ストローで吸い上げていたオレンジジュースが、ぴゅっと口からこぼれそうになる。  「えっ! 美空、嘘でしょ!?」  「……ほんとだよ」  美空は口をぎゅっと真一文字にし、俯くというか、少し顔を反らしている。  艶のある柔らかそうな頬が色づきはじめるのを見て、ほんとなんだとわかった。  「大地ねー。あいつのどこが」  いいの? とニヤニヤしながら尋ねようとして、止めた。  恋の相手としての大地の良さは私にはよくわからないけど、美空が本当に大地のことが好きなら、その気持ちを笑ったり貶めたりしちゃだめだ。  むしろ、大親友の美空の恋であるなら。   「それでね、笑瑠には」  美空が言い終わる前に、テーブルの上に置いてある手にそっと両手を添えた。  「もちろん。応援するよ!」
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