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暫くして大きな懐中電灯と鍵を持って来たコウさんと庭を横切り、土蔵へ。
時代劇で見るような錠前。扉を二つ開けて中へ入る。
閉じられた空間に外気が流れ込み、眠りを妨げるように裸電球が灯る。
大小様々な木箱が置かれたり、積まれたりしていた。
玉虫色の衣装を着た対の大きな雛人形が目を引く。
沢山の木箱の中には何が入っているのだろうとついキョロキョロする俺に構わず、コウさんはガラス戸のはまった本棚と食器戸棚の前で立ち止まった。
戸棚の鍵を開けて捜索開始。
書籍の殆どは医学書関係で、古いカルテのような綴りもある。
「あったよ」
暫く、蹲って探していたコウさんが、小さな柳行李を引出して言った。
書庫で見た同じ装丁が二冊と、油紙が張られた行李の中には、硯箱と矢立、達筆に書かれた巻物と薄紙の束が入っていた。
コウさんは俺に持たせると、急ぐように蔵を後にした。
「こんな所に元旦早々長居は無用だよ。取り憑かれそうだ」
超常現象みたいなことを平気で言うくせに、この人は案外怖がりなのか?と思ったら可笑しかった。
「何笑って」
「いえ、なんでも。もっとゆっくり探検したかったです」
「ガラクタだよ」
「あれ、何に価値を見出すかはその人次第じゃなかったですか?」
「正月早々蔵開けさせて、生意気」
「すみません」
些細な会話に安堵する。
冷え切った白い、頼りな気な顔をして俺を待っていたコウさんはもう居ない。
俺が描いていた輪郭。
失くしたものがまた掌に戻って来たような気がした。
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