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遠くに子供の甲高い声がして目が覚める。
部屋はもうすっかり明るくなっていた。
コウさんはスーツ姿であの薄紙の綴りを広げているようだった。
10時になろうとしている。
ソファーから起き上がった俺にコウさんが笑う。
「おそよう」
「あー、いつの間にか寝落ちました」
「初日の出、お参り済ませたから」
「えっ?嘘でしょ。酷い。あーもぉ、
一生の不覚。コウさん、スーツ着て、年始回りとかですか?」
「いや、新年だから?家は朝飯は必ず全員で食べるとか、なんかうるさいんだよ。別に行く所はない。何か食う?おせちとか雑煮とか」
「いえ。あーホント、寝過ごすとか、マジあり得ない。ショック」
「朝日は毎日上るんだからいいよ。それより、保志乃合へ行くんだろ。顔洗って」
「行きます」
スーツ姿のコウさんを見たのは、観月会の時と二度目。髪もきちんとして、リーマンみたいだ。
この人の過去に何があったか知らないけれど、傷つくこともなければ、こんな格好をして都会で働いていたのだろう。
無論、俺とは何の接点もなく…。
朝日は毎日上る。
夕べは明けない夜の中に居るような顔をしていたくせに。
一年の始まりがPandora事務所のソファーからというのもありなのかもしれない。
コウさんと見る冬の、新春の風景が始まる。
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