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哭き龍
風は冷たいが、穏やかに晴れた元日。
田舎道はさして車も多くない。
数多の不思議の話をあれこれと尋ねる。
勿論、会ったこともない先祖のことだから、コウさんの話しぶりは他人事なのだが、この人のふわふわした話は、俺の興味を更にかき立てた。
明るい日差しが、山道に、長く続く階段に、ちらちらと溢れている。
ぽつぽつと、初詣を済ませた人とすれ違う。
「そうだ。コウさん、神主になりませんか」
「藪から棒に何?」
「あの人達、神主を探しているらしいですよ。コウさんみたいな人がいいって、テンテンとハク様が言ってました」
「みたいな人って、無理だろ」
「そうかなぁ?案外イケてると思うけど」
「探してたのはアオだけじゃなくて、神主もなんてどういうこと?」
「そういうことです。三人共理想が高そうだし、選り好みしてるんじゃないですか」
「彼女じゃないし、それでご指名されても困る」
「コウさん似合いそうなのに」
「馬鹿なことを。シュウと下らない話をしてると頂は近いな」
コウさんはそう言って笑った。
下らなくはない。真面目な話だ。
鳥居の向こうには、いつもの風景とは少し違って、小さな子供連れと老若男女がまばらにお参りしているのが見えた。
何か、心細い気持ちで此処を後にしたのが思い出された。
お参りを済ませて、三柱鳥居へと向かう。
コウさんは慈しむように子狐を見つめていた。
「コウさん、コウレイって言うんですね」
「コウラン」
「ラン?コウラン。なんかカッコいい。日本人じゃないみたい」
「余り好きではないよ」
「俺…コウさんのこと、何んにも知らないんだって…」
「余計な情報は要らない。シュウに見えているものが全て。ね、アオもそう思われますよね」
綺麗に整ったつま先に少し触れてそう言った。
ツキシロコウラン…
俺の知らない人みたいな気がして、思わずスーツの袖を掴んだ。
「えっ?」
「あ、いや、すみません…」
捕まえていないと煙のように消えてしまう気がした。
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