哭き龍

2/10
前へ
/67ページ
次へ
社務所の前では、二人がお神酒や甘酒を振る舞っていた。 俺達の姿に綺麗な顔が綻ぶ。 「おめでとうございます。よくお参り下さいました。お二人にとって良い一年になりますように」 アカリさんが俺に向かってウインクしたのを見て、コウさんが怪訝な顔をする。 「あの…新聞はもうありませんか?アカリが手渡しするもので直ぐになくなってしまって」 「また、人のせいにして」 「ありがとうございます。お持ちします。シュウが頑張ってくれたお陰でとても評判が良くて嬉しいです」 「そうですね」 本心なんだかわからないが、穏やかな笑顔で応じているコウさんに少しホッとする。 「おや、その盃…紙で出来ているんですね」 お神酒を断ったコウさんが手元を覗く。 「どうぞ。ハクとテンの手作り」 「綺麗ですね。名は体を表すと言うように、文字にもその人が映る。ハクさんは本当に美しい」 「え?コウさん、ハク様の字が判るですか?」 「勿論。シュウが自慢気に御朱印見せてくれただろ」 「そうですけど…」 「心願成就…か。道は険しく遠いな」 「いえ、願えばいつか叶いますよ。月代さんの心願も」 テンテンに言われて、コウさんは照れ笑いを浮かべた。 コウさんの心願… 「あ、俺、新聞持って来ます。100でいいですか?」 「200。持てる?」 「なんとか」 心願成就と書かれた紙の盃を光に翳しながら談笑する三人を見て、車に戻った。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加