哭き龍

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背中に100、腕に100抱えて社務所へ行く。 コウさん達は、まだ何か話をしていた。 甘酒の紙コップを子供に差し出している。腰を屈め目線を合わせるように微笑んでいるコウさんは、なんとなく、いつもと違って見えた。 社務所では、ハク様が筆を握っていた。 良い姿勢、きりりと結んだ長い髪、絵のように美しい。 物音に振り返った。 「お邪魔してすみません。追加の新聞お願いします」 「沢山ありがとうございます。アカリがにっこりしながら手渡しするものだから、すぐに無くなってしまって、重たい物をすみません」 「いえ。有難いです」 「仲直り出来たみたいで良かったですね」 「あ、ええ、まぁ」 ぐずぐず言ったことを思い出すと恥ずかしい。 「また時々はお参りにいらして下さいね」 「はい」 「御朱印一枚どうぞ」 「えっ、あ、お金を」 「いえ、お礼に。月代さんにもお渡し下さい」 祈 心願成就、元日の文字。願えばいつか叶う。コウさんの願いも叶うと良いと思った。 三人にお礼を言って神社を後にする。 「悪かったな。運ばせて」 「いえ…コウさん、ハク様から」 「あー名前入り。ほら、盃と同じ」 紙の盃と御朱印を並べて見せたけれど 俺にはよくわからなかった。 嬉しそうだ。 昨夜から、この人が見せる表情に、こんな顔をするのか?と何度も思う。 この隣に居るのは、俺の知っている同じ人なのだろうかと。 「何?」 「え?なんでも…」 「シュウが無口な時は、ろくなこと考えてないからなぁ」 「ろくなことって」 「黙って台車置いてくし、黙ってポストインしてくし」 「それは…もう俺の顔見たくないだろうと思って…」 「ふぅん…で、何?」 「何っていうか…俺、コウさんのこと、何も知らなかったんだなって…」 「それ、さっきも聞いたけど?」 「だから…別に何でもないですって」 「そう」 うそぶくように俺を見て少し笑った。
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