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車は家とは反対方向に向かっていることに、少し走った辺りで気付いた。
「何処へ行くんです?」
「何か用事あった?」
「特に…」
「着いてのお楽しみ。途中で年越した蕎麦でも食おう」
西へ西へと向かった車は、市街地を抜けて山道へと走る。
「天ノ龍神ヶ洞」という大きな看板。
鍾乳洞を見に来たのか?3日迄休業とある。
広い駐車場の前でスタッフらしき人が声を掛ける
「すみません。三が日はお休みで。駐車はどうぞ。御参拝ですか?」
「揺り籠は見られます?」
「はい。社殿にあります」
「朔薇さんは真面目に仕事していますか?」
「えっ?ええ、勿論。多分」
「多分。と、ええと、ユリネ?さんが言ってたと言おう」
「いや、真面目にお勤めしています」
「そうですか…少しお邪魔します」
彼は少し困った顔をしてから会釈をすると、駐車場のパイロンを片付け始めた。
揺り籠…「数多の不思議」の1番初めにあった話だ。龍の髭で編んだ揺り籠。
「コウさんっ」
「では、拝見させて頂きますか」
「お知り合いが居るんですか?」
「まぁ…ね」
悪戯っ子のように笑うと、来た道を下り始めた。
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