哭き龍

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道から少し入ると急に開けて、鳥居をくぐった先の広い敷地内に生垣で仕切られた神社と寺が在り、少しの墓石が見えた。 「天之嶺神社」と「龍谷寺」 寺の方は静かな佇まいだった。 「寺と神社、嶺と谷、面白い符合ですね」 「うん。神社は元はこの反対側の山の頂上に小さな祠が在ったものを下ろして来たから、谷が正解かもね。あの「天ノ龍神ヶ洞」は神社が所有している。かの月代皇之介は、この龍谷寺に修行に入ったわけだ。そこで、揺り籠の話を聞き及び、実物を目にして不思議大好き狂喜乱舞って処か」 コウさんはそう言って列の前を背伸びをして見ていた。 人はそれ程多くはないが、お参りをした後にその揺り籠を見ているのか、列はなかなか進まなかった。 「気のせいか、お腹の大きな人が多くないですか?」 「気のせいではないね。安産祈願?生まれて来る子が無事丈夫に育ちますようにってやつ?元日一日しか見られないからね」 「コウさん、見たことあるんですか?」 「…ん、中学生の頃にね」 「龍の髭でした?写真は駄目なのかな?龍が編んだんですかね?龍の指って3本?でしたっけ?器用だと思いません?あー早く見たい」 「シュウ…可愛い」 コウさんは俯いて酷く可笑しそうに笑った。 真面目に言ったのに。 「だって、本にはそこん処書いてなかったじゃないですか」 「爪の数は色々だな。皇帝を表す龍は五本だし、まぁ、信じる者は救われる。信じてこその神頼み。プラスティック製でないことは確か。器用な龍が赤ん坊のために編んだんだろ」 コウさんはククッと笑いながら言った。 龍が揺り籠を編む処を想像したが、 何か婆さんが編み物をしている絵しか浮かばなかった。 少しずつ参拝の順番が近づいて来る。
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