哭き龍

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米や酒が供えられた神棚の手前に、正面に繭玉を半分にしたような小さな籠が見えた。 象牙色をして、思っていたより細い糸で編まれでいて、思っていたよりずっと小さかった。 それより、天井に白い龍が描かれていたのが気になった。 よくは見えなかったが、まるで上から揺り籠を見守っているかに見えた。 「シュウ」と促されてもう一度、視線を落とすと、揺り籠が僅かに揺れた気がした。 「あれが龍の髭で編んだ揺り籠」 「天井に龍がいましたね」 「ん、白龍。瞳は深い翠色をしている。で…あ、朔薇さんっ」 コウさんが呼び止めた方を見ると、白い袴姿の神職がこちらを向いた。 年の頃は、コウさんと同じくらいか、やぁ、と上げそうな手を慌てて下ろすと、微笑みながらこちらへやって来た。 「おめでとうございます。コウ君、お久しぶりです。よくお参り下さいましたね」 「ええ。揺り籠を拝見に」 「おや、パパになられます?」 「まさか、諸々行きがかり上。シュウ、こちらが、まぁ多分真面目にやっているんじゃないだろうかの天津朔薇さん」 「え、なんですか、その紹介は」 「と、ユリネさんが言ってました」 「流石コウ君、よくユリネって読めましたね。まぁ彼はそんなことは言いませんけど。初めまして、天津です」 「時任アマネです」 お辞儀をして直ると、コウさんが驚いた顔をしていた。 「ええっ、シュウ、何っお前、アマネっていうの!」 「はい」 「ええっ。知らなかった。言えよ。フルネーム初めて聞いた」 「コウ君、今日は一寸お相手出来なくて…」 「大丈夫。数多の不思議で来たの。またゆっくり伺います」 「そうして下さい。では、アマネさんもまた…」 「はい」 天津さんが行ってしまうと、コウさをはいきなり俺の頭を小突いた。 「痛っ、何すんですか」 「この、トキトウアマネがっ」 「アマネ…」と呟いて少し笑った。
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