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「此処にはよく来るんですか?」
「いや、ん、3年ぶりくらい」
「でも朔薇さんとは親しいんですよね?コウ君」
「いや、特に…アマネ君くらい?」
「な、しつこいっ。もぉいいですよ。アマネなんだから。アマネで」
「怒った?いや、シュウが僕のことを知らないって言うのと同じだと思ってさ」
「それは…ホントのことだし…」
「ん…なんていうか…近くに居るのに、実は名前すら知らなかったって案外ショックなんだと初めて気づいたって意味」
コウさんは微笑むように言った。
名前すら…。
目の前に映るものが全てだと言った時と同じ顔をしていた。
知らなければ知れば良い。
または、知らないままでも良い…。
「山の上まで登ってもいいけどどうでしょうか?」
天井を見上げながら、龍の返事を待っているかのように呟いた。
「龍神を祀ってた所ですか?」
「うん、上って下りて…暗くなりそうか。またにしようかな。春は山桜がとても綺麗だそうだから、鍾乳洞見学とまた来ようか」
「はい」
「シュウ…」
「…」
「神様の前も御仏の前も心が穏やかになるね」
コウさんはそう言って手を合わせた。
いつも沈着冷静に見えた。
喜怒哀楽を表情に出さない。
何を考えているのか、不思議な人だと思っていた。
それでも、初めて気づくことがあり、胸の中に波紋が広がることがあるのだと、目を閉じて手を合わせる静かな横顔に思った。
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