地雷

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「匿名希望ならネットでパンドラ新聞でも、ブログでもやればいいじゃないですか。毎日だって更新出来る。広告取りや配ったり置いて貰う手間も要らない。発行部数よりずっと大勢の人が見てくれる。それでもコウさんが紙媒体にこだわるのは、顔を見たいからなんじゃないんですか?月代皇が作ってますって」 「ち、違う…」 「違いません。知らない何千何万の人じゃない、顔を見て繋がりたいんだ」 「違うから…」 「差し替えなんかしませんよ。クビで構わないんで、これは俺が引き取ります」 「…シュウ…」 背中に、さっき迄の剣幕が消えて、何か言いた気な頼りない声が聞こえたけれど、俺は台車を押して振り向かなかった。 なんでこんなことになったのだろう。 家まで僅かの距離がやけに遠く、台車が重い。 段ボールを運び入れながら、コピーした本の封筒を置いて来てしまったことに気づいた。 コウさんに縁の人か、尋ねようと思っていたのに…。 名前を載せたことも、事後承諾で簡単に済む話だと思っていたのに。 なんなら狐と一緒ににっこりしているコウさんの写真も載せたいくらいだったのに。 何もあんなに怒ることはないし、つい、言わなくていいことまで言ってしまった。
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