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境内は朝の張り詰めた空気に満たされて、静まりかえっていた。
手を合わせ目を閉じて、何か祈ろうとしているのに、頭の中も心の内もごちゃごちゃして、只々手を合わせているだけだった。
神様の前で、また一つ溜息が零れた。
振り返るとテンテンがお参りが済むのを待っていたかのように会釈をした。
「おはようございます」
「おはようございます。随分早くにお参り下さいましたね」
「ええ…あの…新聞が出来たのでお持ちしました」
「そうでしたか。中に入りましょう。温かいものを入れますよ」
社務所に通されると、二人は既に掃除をしていて、小さな木の雨戸が開けられた処だった。
俺の姿に、おやおや早い客だこと。ような顔をしてお辞儀をした。
俺は、あの子狐が化けた小柄な神職が一人増えていたらどうしようと、つい辺りを見渡してしまったが、無論、そんなことはなかった。
早速新聞を三人に手渡して見て貰った。
「Pandora…すみません。初めて見ます。へぇ、楽しそうですね」
「これで、恋愛成就しなかったら叱られそうだな」
イケメンのアカリさんが笑い、其々に興味深げに話す。
「近くにこんなにも多くの寺社があるんですね」
「あ、この石龍さんが直してくれたんだ。イラスト可愛い」
「この新聞頂けるんですか?」
「勿論です。と、いうか100部くらい置いて貰えないでしょうか?」
「100?100でも200でも、きっとお嬢様方がお持ちになりますよ」
「それは嬉しいです。実は…」
言葉を飲み込む。
彼らも快く思わないだろうか。
テンテンの入れてくれたお茶。
小さな湯呑の温かさが指先の冷たさを溶かして行く。
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