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俺は三人の視線を感じながら、ぽつぽつと夕べの経緯を話した。
コウさんの名前を載せたかったこと。
叱られることはしていない筈のこと。
雇われでもいないのにクビになったこと。
等等だ。
三人は黙って聞いていたが、ハク様が微笑みながら優しい声で言った。
「それでは、私達も月代さんに叱られてしまいますね」
「え?」
「そうだな。実は先日役所の人が来られて、いや、この狐ではないと言われるので、この石龍さんに態々来て貰って、その時お願いして…」
「お願い…?」
「つい一昨日出来たのですよ」
「月代さんにはまたご連絡するつもりで.見に行きますか」
三人はそう言って立ち上がると、俺を急かすように社務所を出た。
三柱鳥居の前まで来ると、台座の後ろを指差した。
其処には、奉 月代皇麗と彫られてあった。
皇麗…コウさんの名前。
初めて知った。今更。
「ありがとうございます。コウさんは知らないけど、俺は本当に嬉しいです」
「私達も、貴方と月代さんには感謝してもしきれません」
「俺は、何もしてないですから」
「何も受け取っては下さらなくて…」
「今はとても幸せだから、何も要らないって言ってたな。シュウ君が色々拾って来るので楽しいって」
「拾ってって…俺は…」
「あ、玉を頂ければ充分だと。ハク、袋を作ってたんじゃないの?」
「ええ」
「アオが戻って来て、皆さん撫でて行かれるのですよ」
「パワースポットの威力UP」
「この子は、やっぱりアオというんですね。コウさんがハルかアオだろうって…それに、スワハラで見た時、落とさずよく頑張りましたね。またお迎えに上がります。って。こんな日が来ることがわかってたみたいでした…」
「不思議な…優しい方ですね」
「ええ…分からず屋ですけど」
「直ぐに仲直り出来ますよ。アオもそう願ってます」
「クビなんで、新聞3000配ったらお終いです」
「そんなことはありません。大丈夫」
テンテンの言葉に二人はうんうんと頷いた。
俺は、削れていた前脚を撫でて、もう一度、台座の名前を見てから、バイクに積んである新聞を取りに階段を降りた。
木立の間を、漸く差し込む朝陽がキラッと光る。
子狐を連れて来た帰り、黄昏時の丁度あの辺り。
「シュウっ、置いてくよぉ」
とコウさんは振り向いて笑った。
置いて行かれたのか?
それとも、俺が置いて行ったのか?
「シュウさんっ」
上から声が降って来て、三人が階段を降りて来た。
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