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家に到着すると、ハンスは足跡が追いつくのを待ってからドアを閉めた。餌を与えはしないが、外に締め出すのは余りに忍びない。それに最近は、このミトラが親友の化身のような気すらしてきて、ハンスは不可視の生き物に同居を許していた。
古びた椅子に座り、短く息を吐く。隙間風がひどい。しかし粗末な掘っ立て小屋でも馬小屋よりはマシだと、ハンスは自分に言い聞かせる。
ハンスはかつて、馬小屋の子供だった。
この街には大きな馬小屋があり、街で飼っている公用馬が何頭も繋がれている。その馬小屋で寝起きをし、馬の世話やら雑事やらをする浮浪の子供たちが、この街には多くいる。
幼い頃ハンスは、自分も含め浮浪児たちが一体どこから湧いて出てくるのか、不思議でならなかった。大人たちが口にする「馬小屋の子供は馬の糞から産まれてくる」という冗談を、半分本気にしていたほどだ。
「そうだとしても、馬の糞がこうして立ったり喋ったり出来るようになるんだから、大したものだよ。俺たちは馬の糞の中でも、きっと上等の糞だったんだろうね」
まだ少年だったフリッツは、そう言って朗らかに笑った。
フリッツはハンスと違い、楽天的な性格だった。誰のことも憎んでいなかったし、忌まわしい馬小屋ですら、故郷と呼び親しんでいた。ハンスがそれにどれだけ救われていたか、彼は知らなかっただろう。そして、知らないまま逝ってしまった……。
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