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雪が降り始める。ハンスは今や執念のみで動いていた。風雪に叩かれ、血液は失われ、体は氷のように冷たくなっていく。二人を見付けて、連れて帰るのだ……生きた屍のように、ハンスは歩き続けた。
しかし、間もなく限界が訪れた。体重を支えることすら困難になり、ハンスは雪の中に倒れ込んだ。
「レオ……メラニー……」
呟く声すら凍りつき、雪の中に埋もれていく。鼻梁を流れる涙だけが妙に熱い。
この涙が、体を温めてくれればいいのに。死に侵され始めた頭で、ハンスはそんなことを考えた。そうしたら脚も動くようになって、二人を探しに行けるだろう。でも、俺が泣きながら探しに来たら、二人とも驚いてしまうだろうな……。
その時、ハンスの鼻を舐めるものがあった。それはハンスの周りをうろうろ歩き回ったあとで、懐の中に蹲る。
「ミトラかい?」
尋ねると、霜柱を踏むような音が微かに聞こえた。「そうか、お前なのか」と言って、ハンスは指の足りない手で、見えない何かを優しく撫でた。
「すまないね。お前に一度でも、干しぶどうをあげれば……よかったなあ……」
そしてそれを最期に、ハンスは二度と喋らなかった。ミトラはしばらくハンスのそばでじっとしていたが、やがて立ち上がり、吹雪の中へと消えていった。
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